ブラックコーヒーにミルク (Page 2)

もう17時だというのに、明かりがない。

「今日は休みか?」

いつもであれば21時まで店は開いているはずだ。

そっと扉に手をかけたとき、グッと重さが加わったのがわかった。

同時に扉は開き、彼が顔を出した。

驚いたように目を見開き、すぐにいつもの笑顔に戻る。

「ああ、いらっしゃいませ。せっかく来てくださったのにすみません。今日は、お休みなんです」

「そうだったのか、珍しいね。今まで休みなんてなかったのに」

残念そうに呟くと、彼は少し笑った。

「ごひいきにしてくださって、ありがとうございます」

「いや、いつもお世話になっているから…。ところで今日はどうして」

休みなの、と聞く前に彼が不満げな顔で私の話をさえぎった。

「叔父がね、アイドルにハマってしまって。その、なんていうんです、地下アイドルです。ライブだか握手会だか、なんだか知らないですが、そこに行きたいと駄々をこねまして。急きょお休みにしたんです」

私は思わず声を上げて笑った。

「そうか、元気でいいことじゃないか。それで、君は休みの日なのにどうしてここに?」

「一応、店の掃除に。お客様はお近くで仕事を?」

「ああ、職場が近くてね。それで、今日もこの店で夕食をと思ったんだけれど…」

「本当にすみません…。でも、いつもスカスカの古びた喫茶店なんかより、あっちのオシャレなイタリアンの方が、お客様には似合っている気がしますけど」

こんなこと言ったら叔父さんに怒られちゃうな、とクスクス笑う。

いたずらっぽい笑みの彼を初めて見た気がする。

私はなんだか彼の知らない面を見た気がして、ひどく嬉しい気持ちになった。

「ははは、ここのコーヒーが好きなんだ。ナポリタンももちろん美味いし、それに、君もいる」

そうして思わず口に出してしまった言葉に、二人の時が止まった。

私はハッとして、すぐに手を振った。

「いや、私ももう若くないから、君みたいな若い子が働いているのを見ると、応援したくなってね。ごめん、変な意味はないんだ」

「いえ、嬉しいです。その、例えば、先ほどの言葉が、変な意味だったとしても」

彼の言葉と彼の赤らんだ頬に、私は自分の心臓が高鳴るのを感じた。

まさか、そんな——。

「…こうして話すのは、初めてだね」

「そうですね。お客様と二人で話してみたかったんです。お客様はいつもとても素敵で、僕はずっと…」

彼は何かを言いかけて、少し困ったような顔で私を見る。

ドキリとした。

ジリジリとした夏の暑さと、彼の視線に溶けてしまいそうになる。

「…コーヒー、飲んでいかれませんか」

そう言った彼は私の手をそっと握り、そのまま店の中に私を招き入れた。

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