彼の危険なパンドラの箱 (Page 6)

 翌日、仕事終わりにいつものように店に行くと、マスターがひっそりと俺に声をかけてくる。

「昨日はごめんね。身体は大丈夫?」

「ああ、平気。鹿目くんは?」

「買い出しに行ってもらってる。しぃちゃんと二人の方がいいかと思って」

「それなんだけどさ、告んなかったよ」

 アイツの重さを知って、気遣ってもらったところ悪いけど俺は好きな奴に告白しなかった。

 何せ鹿目くんに脅しかけられたから。

「え、まさか一夜にして鹿目くんに乗り換えた?」

「気持ちはまだアイツのことが好きだよ。でも、あんなの見せられたら、ねぇ…?」

「あ、あんなの?」

 テーブルに肘をつき、口元を手で覆う。

 昨夜、鹿目くんの家に持ち帰られ、身体の関係を持った。

 それまでは何も問題はない。

 一夜限りの付き合いだと思ったからだ。

 

 でも、朝起きた時に彼は俺を脅した。

 

「告るんなら家を出さないって言われた」

「そ、それはまぁ…大変ね。でもそれなら口約束でいいんじゃないの?」

 それはもちろん。

 別に告ったかどうかなんて報告する必要なんてない。

 

 でも、さすがにアレを見せられたあとじゃ嘘を吐けないって思う。

 

「アイツにはさ、パンドラの箱があるんだ。この店にいるとき、会社にいるとき、通勤中や出張の俺の写真が詰まった箱」

「え!? 社内ってどうやって…」

「会議中の居眠りや、ホテルに男を連れ込んだとき、それからトイレや風呂の写真まで…」

「ちょっ、それはヤバいって!」

「告れるわけないだろ? どこで見ているかわかんないって思ったら、だまして告るなんてできなかった」

「それはそうね。とっても利口よ」

「あと一緒に住むことになったから、この店に来れるのはアイツの出勤時だけかも」

「何その急展開!」

 鹿目くんの愛はこじれにこじれ、同居も同意をしなかった場合『閉じ込める』と脅された。

 つまり会社にも行けず、縛られて家で飼い殺しされる。

 パンドラの箱を見たあとだったし、脅しには聞こえず拒否権はない。

「しぃちゃん、本当にいいの?」

「よくはない。ってかマスターも協力してただろ」

「うっ…」

 腹をくくる以外、できることはない。

 それに失恋を癒すのは新しい恋に限るし?

 

 たまには想うよりも、想われるのもアリかなって思う。

 だいぶこじらせて、愛は重いけど。

Fin.

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