最愛の恋人の胸でみる甘く淫らな刹那の夢

・作

ハッテン場でもある会員制のバーで出会った日野涼真(ひのりょうま)に心を奪われ、告白して晴れて付き合うことになった羽場徹也(はばてつや)。しかし、涼真には別れた妻と子供が居る。ある日、仕事の出張に行くと同時に子供に会いに行くと告げて、徹也の元を2週間ほど離れる…。

ハッテン場でも有名な会員制のバーで涼真さんと出会った。

彼の人懐っこい笑顔やコロコロ変わる表情を見ていたい。

彼が与える濃厚な快楽を味わいたい。

彼を独占したい。

日増しに増幅する欲望が抑えられなくなったある日の逢瀬、僕は告白した。

「僕と…付き合ってくれませんか?」

すると、彼はいつものように笑みを浮かべて答えた。

「喜んでお付き合いします!」

笑顔につられて僕も笑いながら歓喜に震えていた時だ。

「でも付き合う前に1つだけいい?」

声色は柔らかく聞き慣れたものだが、顔は一転して真剣な面持ちで見慣れないものだった。

「何ですか?」

気持ちを落ち着けているのか、涼真さんは一呼吸置くと先を続けた。

「オレ実は、離婚経験あって、親権はないけど子供も居るんだ…それでも付き合ってくれる?」

「…今更、気にしませんよ」

応えるとパアッ効果音がつけれるくらい、涼真さんの顔に笑みが戻った。

「ありがとう。これからよろしくね!」

言いながら彼は僕の体を自分の胸に収めた。

(気にしないとは言ったけど…何だ、この落ち着かない感じ)

うやむやな感情をそのままに、大きな背中へ腕を回して涼真さんの体温を貪った。

*****

休日の前日、休日、休日以外に時間が空いた日。

僅かでも時間があれば涼真さんは僕に逢いに来てくれた。

彼と囲む食卓。

彼と一緒に見るテレビ番組や一緒に聴く音楽。

彼の匂いや存在が染み付き始めた部屋。

長い日を置かず逢いに来るから、涼真さんが僕の日常に居るのが当然になり始めていた。

付き合い始めて1年半が経とうとした、ある夜のことだった。

「そうだ、1つ伝えたいことがある」

一緒に食事してテレビを見て過ごしてから、素肌を交えてと日常を送っていると彼が切り出した。

「明日から仕事の都合で、2週間は逢えないんだ」

「地方に出張?」

「まあ、そんな感じ」

「そうなんだ」

今まで2週間も逢わなかった期間がなかったからか、少しだけ寂しく感じた。

その上、次に言われた涼真さんの一言が追い討ちをかけた。

「あと、ついでに子供にも会いに行こうと思ってる。誕生日近いし」

”子供”

彼の口からその言葉を聞いた瞬間、胸の奥がズキっと微かに痛んだ。

どうして子供に会いに行くの?

仕事が終わったら真っ直ぐ帰ってきてほしい。

離婚して親権もないならそれで終わりだと、婚姻経験のない僕は思ってしまう。

しかし、独りよがりな願望を押し付けてはいけない。

さまざまな道理を言い聞かせながら、僕は発しようとした言葉を喉の奥に飲み込んだ。

「わかった、気を付けて」

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