それに名前をつけるなら、最愛。

・作

カイが10歳の頃、父親の再婚で弟になった1つ年下のリク。カイとリクは仲のよい兄弟として共に成長していった。ただ、お互いに兄弟以上の感情を持っていることを、気づいていながら知らないフリでやり過ごしていた。出会いから20年、結婚を決めたカイとそれを知ったリク。カイは暗示をかけようとリクに告げ――!?

「今日から家族になるんだよ」

カイが10歳、リクが9歳のとき、互いの親にそう言われて2人は出会った。

カイはリクを可愛らしいと思ったし、リクは自分に兄ができるとよろこんだ。

それぞれ趣味や遊ぶ友人もまったく違ったけれど2人はずっと仲がよく、生まれたときから一緒にいたのではないかと思われるぐらい、お互いのことを理解しあっていた。

連れ子同士の再婚だと言わなければ誰も疑わないぐらいに2人は兄弟だった。

互いが唯一無二の大切な存在だったのだ。

初めての出会いから20年。

両親と暮らしていた家をそれぞれ離れ社会に出ても、2人はずっと兄弟で家族だった。

「へ…そう、なんだ」

そう言ったリクが頬を引きつらせて笑うので、隣に座っていたカイはフゥとため息をついて瓶ビールをグイッと煽った。

ゴクン、と飲み物が下っていくカイの喉元を眺めながらリクはポツリと言う。

「久々にウチに飲みにくるとかいうからなにか話があるのかなーとは思ったけど…」

就職を機にそれぞれ実家を出て一人暮らしをしていたが、住まいは同じ市内だったため、頻繁ではなくともたまに家を行き来していた。それがパタンとなくなったのは、つい1年ほど前。

その理由についてリクが追求してくることはなかった。

そして、まるでわかっているかのようにリクからの連絡はほとんどこなくなった。

つい3ヶ月ほど前、盆に実家で顔を合わせたときにも、特にリクはなにも聞いてこなかった。

いつもと同じ空気感と小さい頃からずっとかわらない立ち位置で隣に座っている。

もしもそれがなくなってしまったら、そんな未来をイメージして怖くなったのはカイのほうだった。

だから、カイはリクよりさきに未来を選んだのだ。

「親父達には?もう報告した?」

「いや…年末の帰省のときに話そうかと思ってる」

「ふぅん…」

のんびりとした口調で相づちをうったリクは、トンと軽くカイの肩に頭を乗せてきた。

リクに頭を預けさせたまま、カイはまた酒瓶に口をつける。

ふるる、とリクが小さく身じろぎした。

「カイくん。僕が聞きたいこと聞いてもいい?」

「なに?」

「…なんで、結婚するの?」

瓶の中にわずかに残った酒をタプンと揺らしながら、カイはそれをテーブルに置いた。

「なんで…かな」

「なに?そんなぼやーっとした気持ちで結婚するわけ?」

「なんとなく?実は1年ぐらい前から俺ん家で同棲してて、まぁズルズルするのもあれだし…タイミング?」

「なるほどね。1年ぐらい前からカイくんからの連絡なくなったし、そんな気はしてたけど」

ふふ、と笑ってリクは、グリグリとカイの肩に預けていた頭をさらに強く押しつけてきた。

「リク…」

カイはリクの髪に指先で触れた。

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