この心をどうやって伝えようか (Page 2)
その言葉を聞いて次に驚くことになったのは俺の方だった。
俺だって立派な大人だ。【抱く】の意味がただ抱きしめるということではないことくらい理解できる。いや、もちろん彼に抱きしめられるならそれだけで嬉しいのだが。
けれど彼は冗談などではないのだと言わんばかりの真剣な面持ちで言葉を続ける。
「今まではお前の負担や準備を考えて言わなかったけど、ずっと俺はお前を抱きたいと思っていた」
「そん、そんな嘘を言うな!頼む、もうやめてくれよ…!これ以上、俺の心を同情で殺さないでくれ…っ!」
「俺は同情で男を抱けるほどお人好しじゃない。近くにいたお前ならわかるだろう?…それに、お前の言うことが本当なら、俺はお前を抱けないはずだ」
彼の大きくて無骨な手のひらが、大して柔らかくも細くもない、立派な男性の骨格をした俺の手のひらに触れる。
重ね合わされた手から、暖かな体温が伝わってくる。それがなんだか嬉しくて。何よりとても安心できた。
「一回だけでいい。俺の心をお前に伝えるチャンスをくれ」
「………アンタは、本当にずるい奴だ…」
何もかも全部俺のためなのに。
なのにコイツは、自分のせいだからと言ってくる。
そんなことを言われて、俺が断れるわけないのに。昔からコイツはそうだった。本当に、本当にズルい奴。
暖かいシャワーを頭から浴びながら先程までの記憶を呼び起こす。
あれから準備が必要だと言って風呂場に向かった俺を、扉の奥で彼がじっと待っているのがわかる。
逃げないように監視しているつもりなのだろうか。逃げるわけないのに。
こんなの、願ってもない展開だ。
アイツが俺の身体で興奮するわけがない。
勃たなかったらそれまで、そこでこの関係性は終わる。
仮に何かの間違いで勃ったとしても、男と女の体じゃいくら準備をしても勝手が違うからすぐに現実に気がつくはず。
そのときは僅かな思い出だけ持って姿を消そう。だから、逃げるわけないのだ。
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