白黒の秘密の話は序章として (Page 2)
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同じ班になった俺と響也の不仲説が院内でも噂になった。
当の本人たちは全く気にはしていなかったが、臨床教授達はよく思っていなかった。
ある日、A教授から俺が提出し忘れた研究発表論文について、執筆後は響也に校正を求めるように言われた。
この話には、さすがの俺も苦虫をかんだ。
「え…でも、どうして」と声出そうになったが、寸前に飲み込む。
散々無視をし続けてきた響也に、文章を校正をされるのだ。それはもうコテンパンだろう。
もちろん、響也も隣で目を見開いていた。そう。嫌だからといって、決定事項を変更できる力はない。
響也は、にこやかに「わかりました」と短く返事をした。その声を聞いた俺は、目をつむって上を向いた。
「綾瀬」
もちろん、頷くことしかできなかった。教授を敵に回すほど、バカではない。
しかし、俺はこの校正をきっかけに、響也へ熱い気持ちを持つこととなる。対比的な俺たちはお互いのない部分を埋めるように校正に挑んだのだ。
俺の研究結果の論文を、響也は楽しそうに読んだ。そして、簡単な校正をして返してきた。
俺がふてくされながら訂正している横で、響也が言った。「俺のも見てほしい」と。
「は?」
「あ、いや。綾瀬くんの文章ってわかりやすくてさ。簡潔だし、理解しやすいから」
響也が手持ちのノートパソコンを開く。
響也の文章は面白かった。調べ上げた内容を、事例とともにわかりやすく説明していた。
「へぇ、見た目と違うんだね」
「よく言われるよ」
その瞬間からだった、と思う。
俺の態度が変わったのは。
俺たちはどのような文章が論文を書くのに正しく、かつ、伝わりやすいのかとか、研究結果を説明するにはどの表現が適切かとか、何日も何日も繰り返した。
長い日は、朝早くから、次の日の早朝まで、そう。丸一日寝ないで意見を述べ合っていたのだ…!
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「教授どうだった?」
「ああ、よかったって」
「やったじゃん!」
自分のことのように喜ぶ響也の笑顔に、ドンっと胸が鳴った。
「あ…あぁ」
響也が「こないだ話していた生物の確認、海でしたいよな、それで今度の月曜なんだけど」と何か話を始めている。しかし、俺の耳は膜がかかったようになんだかぼんやりとしてしまった、続きがはっきりと聞こえない。
「響也…。なんか、俺…お前のこと、好きみたい…?」
響也の目がまんまると俺を見つめていた。俺は自分の口走った言葉に自分で驚き手で口をふさいだ。恐る恐る響也を見ると響也の目は細くなり、口の両端が上がっていた。
「俺も」
まぶしい太陽のような笑顔が、俺に向けられていた。
―――なんだ、そっか。俺一目ぼれだったんだっけ、そうだ。
医学部の入学式の日、コイツのこと見たんだ。俺はまだ地味なメガネで冴えなくて。でも、コイツは俺の見た目なんか気にもせず会場がわからない俺に―――。
色んなヤツにニコニコしてるから腹が立ってたんだ。なんだ。そっか、付き合ってもないのに、嫉妬してたんだ。気持ち悪いや。
俺は、響也の頬に手を添え厚ぼったい唇にキスをした。
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