夢と目覚めた花

・作

将来は有名な声優になりたいと日々努力している大輔(だいすけ)だが厳しい業界だとわかって両親の反対を押し切り飛び込んだものの、ひとことセリフをもらうだけで精一杯。そこに同期の秋斗(あきと)が「同人声優にならないか?」と提案。軽い気持ちで引き受けたものの、役柄が濡れ場ありのBLもののボイスドラマで――。

俺の夢は誰もが知る有名な声優になることだ。

声優業というのはとても狭き門で志望者だけで30万人。
その中からふるいに掛けられ、声優業だけでご飯を食べていけているのはたった300人程度だといわれている。

そんな事実から声優を目指すということは一般社会から逸脱すること、とも言われている。

それでも俺は声優になりたかった。
その夢を家族に話したら母には泣かれ、父にはげんこつをくらった。

その1週間後。
一方的に書いた高校の退学届けと、警察には届けるなという置き手紙を置いて深夜にこっそり家を出た。

それから数年、死ぬ気で努力し、得られた役は話題にもならずひっそりと放送終了してしまった深夜アニメの登場人物だ。
セリフはひとことだけ。

「うげっ! こりゃあ、ひどい…」

殺人事件の第一発見者、という役だった。

想像以上に厳しい世界だった。
気が付いたら俺は26歳になっていた。
夢追い人は現実から目を反らしている、と言う人も居る。

「ねぇ、大輔、ちょっと話があるんだけど」

こう話しかけてきたのは同じ養成所に通う秋斗だ。
秋斗とは同じ養成所に合格した同期生で、俺と違って家族は応援してくれているという。

レッスンの後、俺に耳打ちし、こう言った。

「…どうした?」

「ここじゃ落ち着いて話せないから、僕んち来て?」

「…いいけど?」

*****

「…同人声優?」

「そう、僕達もうそろそろ…って考えたことない?」

「まぁ、それは」

「知り合いに同人でボイスドラマ作ってる奴が居るんだよ」

近くの激安スーパーで買った缶チューハイとつまみをお互い口にしながら話す。

「確かに報酬は安いんだけど、このままオーディションに落ちまくってるだけよりはよくない?」

目を輝かせ、こうとも言った。

「同人から有名になれるかもしれないじゃん?」

*****

コンビニの深夜アルバイトの後、廃棄処分になった弁当や菓子パンを手土産に再び秋斗の部屋へと向かった。

「よお! 1週間後に収録スタジオで、だってさ」

秋斗からの誘いを受けた数日後、友人がシナリオを完成させたとのことで打ち合わせに来たのだ。

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