ミソジのヨルキミヲ…

・作

中学の同級生、タイチとトモキは成人式の日に1度だけ体の関係をもった。それっきり2人は会うこともないまま10年の月日がすぎ、友人の結婚式の二次会で再会する。タイチは成人式の夜からずっとトモキのことが忘れられず、そのせいで深刻な悩みもかかえていた。

乾杯、という司会の声と共にカチン、とグラスの触れ合う音がところどころで不ぞろいに響いた。高砂にはきらびやかなドレスに身を包んだ花嫁とタキシード姿の新郎が幸せそうに並んでいる。

招待客は各々自由な席に座りタイチも旧友と適当にテーブルを囲いグラスに口をつけていた。その視線はさっきからチラチラと1人の男に向けられている。

「こういう機会がないと全然集まらなくなったよなー」

友人の1人がそう言い、タイチを含め周りがうんうんと頷く。

中学時代の同級生が結婚することとなり、新郎の友人として結婚式の二次会に招待されたメンツだ。

「トモキなんか、成人式以来じゃね?」

「そうだね。懐かしいなぁ…」

すぐそばで繰り広げられている会話を素知らぬフリをして、タイチはしっかりと聞き耳をたてていた。

タイチを見ることもなく懐かしい友人達との会話に花を咲かせている人物。彼、トモキによってタイチは人生を変えられたといっても過言ではなかった。

タイチとトモキは中学時代、よく遊んでいたグループが同じで、けれどほとんど接点のないクラスメイトだった。それは、トモキが明らかにタイチを避けるような態度を取っていて、タイチもトモキに嫌われていると思っていたからだ。
けれどそれは誤解だと、成人式の日にタイチはトモキ本人から聞かされた。
そして、本当は好きだったと伝えてきたトモキに誘われる形で、タイチは彼とSEXをしたのだ。

それから10年の月日が経った。
10年の期間、タイチとトモキの関係はというと、全くの白紙だった。

成人式の夜、そのときの1度きりで、そこからタイチとトモキは会ってすらいなかった。

トモキと関係を持った夜、ぼんやりとしたまま家まで送り届けられて、翌日になってからタイチは、トモキと連絡先を交換してないことを思いだした。
自分の電話帳に入っていた中学時代からの友人数人に、トモキの連絡先を聞いてみたが誰も知らなかった。
SNSでトモキのアカウントを探してみたが、見つからなかった。

今日、トモキが来るという話は事前に聞いていた。友人のほとんどがトモキの連絡先を知らなかったが、新郎は母親同士で交流があったらしく、トモキと連絡をとることができたのだとか。高砂席で幸せそうに笑っている新郎に、劣等感のようなものを抱いてしまいそうになって、タイチはブンブンと軽く頭を振って煩悩を追い払うのだった。

トモキが来ると知って参加したといえば語弊があるが、正直タイチは一刻も早くトモキと2人で話したくて仕方なかった。
もちろん、新郎を祝福する気持ちはあるし、旧友との久々になる再会も嬉しい。
ただ、タイチの中でそれ以上を占めてしまっているのがトモキの存在というだけだ。
成人式の夜以来、どんな思いでこの10年を過ごしていたか、年齢があがるにつれて結婚や子供というワードを見聞きするようになっていったその時間を、どんな気分でやり過ごしていたか、タイチはそれをどうしてもトモキに言ってやりたいと思っていた。

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