演技と本気のラブストーリー

「おかえり、今日はどうする？」

恋人の早瀬拓真は、今人気沸騰中のイケメン俳優だ。
俺より8歳年上で遅咲きデビューした拓真と同じ舞台に立ったのはもう5年前になる。

「ひろくん、こういうのはどう？すごく似合うと思うんだけど」

お互い忙しい日々を送ってはいるが、事務所も押し出している拓真の人気は止まることを知らない。
演技だけがしたかった俺は舞台一本、最近は有名な作品にも出させてもらってそれなりに順調。
拓真は舞台のみならず、テレビドラマにバラエティやラジオ、先日はCM撮影もあったらしい。

正直、差を感じる時はある。土俵が違うからと思っても、同時期にデビューした俺と拓真はよく比べられることがあった。

「いいよ、拓真はそういうの好きだね」

レースのついた女物みたいな下着。それから、俺が知っているものとは形が違うけど、多分ブラジャー。
恋人の俺でも言っちゃうくらい、拓真は顔がめちゃくちゃいい。
顔がいいのはもちろんだが振る舞いにも品があって、知的で、トークも上手くて、本当に完璧な男だと思う。

バラエティに出てもクールなイケメンキャラとして、ちょっと驚いたりするだけで視聴率が取れるような超イージーモードの人生に見える。
けれど、拓真にはこれまでに悩むこともたくさんあったと、少し仲良くなってから聞いた。

見た目は女物だけど、れっきとした男物らしい下着は俺でも着ることができた。
とはいえ、面積の少ないパンツから陰茎は見えているし、ブラも乳首が丸見えで意味があるのかわからない作りだ。

「うぁー、ひろくん可愛い。尊い、最高」

普段はキリッとした眉がだらしなく下がり、目で人を殺せるんじゃないかっていう鋭い目力は別の方向に力を発揮する。
知り合ってから一年くらいは頼りがいのある格好いい人生の先輩だった。
二年目くらいにゲイだとカミングアウトされて、俺どっちも好きだからバイかなーなんて話をした。

本当は女としか付き合ったことはないし、性的欲求の対象は女だったけど。
拓真を悲しませたり、距離を空けられたくなくて嘘をついたんだ。