背徳の支配者 (Page 4)

「ん、ん…」

 散々指で嬲(なぶ)られた尖りに今度は彼の舌が這う。

 舐めては音を立ててしゃぶり、時折甘く噛む。与えられる刺激ひとつひとつに私の肌は敏感に跳ね、祭服の下で形を変えた男性器が脈打った。

「あ、ぁ…ぁ…」

 自然と腰が揺れ、私は長椅子の上で身を捩った。

「気持ちよさそうだな」

 神父さん、と彼は膨らんだ粒に息を吹きかけて言った。

「は、早く、終わらせ…っ、あ、んぁ…」

 長く続く胸への愛撫はじれったく、私は息を切らせ先を促した。

 快感と苦痛は紙一重、いつまでも満たされぬ快楽は焦燥感を生む。

「ねだってみろよ」

 余裕を失いつつある私を彼は笑い粒を甘く噛んだ。

「んっ」

 唐突な痛みに眉を寄せ、肩をすくめる。

 ねだるなど、これ以上私の自尊心を奪おうというのか――。

 奥歯を噛み、悔しさから胸元に埋(うず)まる彼の頭頂部をにらむが、彼は上目遣いに私を見て肩を震わせ喉の奥で笑った。

「いいね、そうこなくちゃ…」

 緩慢な動きで彼は上半身を起こすと、下半身を覆い隠す黒い布の裾を掴み捲り上げてきた。

 どんなに強がろうと肉体的な感覚にはあらがえず形を変えた男性器。それに彼の指が絡み上下に扱かれた。

「ぅ、ぁ…」

 私はロザリオを握り直し、もう片方の腕で目元を覆い隠すと硬い椅子の上で腰を反らせた。

 彼の手の動きに連動し、耳に届くのは粘着ついた水の音で、それの正体など考えるまでもなく――。

 陰茎は昂りを増し、根元から擦り上げられるたびに先端からは新たな蜜が零れた。

「ケツをこっちに向けて待ってろ」

 命令とともに離れていく手と一時的に止んだ快楽の波に、私は息を吐き上半身を起こした。

 椅子から足を下ろして彼に背を向け肘を突いて待つ。自ら腰を突き出す体勢に深呼吸をしてまぶたを閉じた。

「…っ」

 祭服は捲り上げられ、彼の眼前で臀部が露になる。

 尾骨の辺りに生温かな液体が触れた。粘着性を持つそれは私の肌に張り付き曲線を描いて滴り落ちていく。

 彼は片手で臀部の割れ目を開き、躊躇(ためら)いもなく窄まりに指を添えた。
「あっ」

 潤滑を得て、身体の中に侵入してくる指にあげかけた声を飲み込んだ。

 顔を伏せ、両手でロザリオを握り、これ以上彼の手に堕ちぬようにと自戒を込めた。

「そう、固くなるなって…すぐに気持ちよくなるだろ?」

 彼の指は私の身体の内側で我が物顔で動き回っていた。

 痛みはない――が、痛みの方がマシだと思えるほどの感覚が私を襲う。

「はっ、く…ぁ…っ、あぁっ」

 いつの間にか二本に増えた指が内壁を擦り上げ、あらゆる箇所を突いた。

 息は荒く乱れ、熱を孕んだ身体が震えて額には汗がにじむ。

「もう、いいか…」

 ずるりと抜け出た指に代わり、押し当てられた熱の塊に、唇を噛み突いた肘に力を込めた。

「――っ」

「…ぅ、ぁ…」

 埋め込まれていく熱に、私は苦しさから絶え間なく呻きを漏らした。

 圧倒的な質量を持つ彼の屹立(きつりつ)は私の中を自身の形に押し拡げ、深い繋がりを求めてきた。

 腰を掴む指が込められ、繋がりを何度も揺さぶられる。

 そのたびに頭が痺れるような快楽が全身を駆け巡り、白濁という形で張り詰めた男性器から押し出された。

「んっ、ぁ、あ、あ…っ、ぁ」

 揺さぶりに合わせ、断続的に喘ぎ、私は尚もロザリオを握り堕ちぬようにとすがった。

 短い間隔で穿たれる楔(くさび)が私の肉体を支配する。

 けれども、心までは明け渡さぬと、強く誓った。

「神父、さん…あんたは、そのままでいてくれ…」

「あ…ッ」

 背後から不意に聞こえた呟きを聞き返す余裕など今の私にあるわけもなく――。

 奥を突かれた直後に注がれる欲の証を受け止めながら、私も同様に祭服の内側で熱を放った。

*****

「いつまで、続けるつもりですか?」

 すべてが終わり、私は彼に背を向けたまま乱れた衣服を整えながら、感情を持たぬ声で訊ねた。

「俺が飽きるまで」

 予想通りの答えとともに背後に忍び寄る影。肩に置かれた手が、襟足にかかる髪をすいた。

「私はいつかはここを去ります。あなたの相手を続けることは――」

「そのときはあんたを追うまでだ」

「…なぜ、私なのです? あなたは不自由とは無縁に見えますが?」

 振り返り、彼を見る。

 言動は粗野ではあるが、容姿に恵まれ、権力も富も持つ彼ならこんな脅迫じみた真似をしなくとも相手に不自由はしないはずだ。

「だからだよ。見た目や肩書きに左右されないあんただからいいんだ」

「…理解ができません」

「それでいい」

 首を横に振った私を見て、彼は肩をすくめて一歩後退ると鼻で笑った。

「あんたはそのままでいいんだ」
 
 向き合い、彼を見上げていると伸びた手が私の顎をとらえた。

「離し…」

 言葉の裏に垣間見えた彼の寂しさ。まぶたを閉じた顔が寄せられ、一瞬だけ触れ合う唇は拒絶すらも許さない。

「…また来る」

 返事はしない。
 
 距離が開き、去っていく影に背を向けた私は主祭壇を見上げ、「どうか、救いを――」と彼のために祈りを捧げた。

Fin.

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