課長、部下のお願いきいてくれますか?
課長の橋本は部下の葛西とふたりで飲んでいた。はずなのに気づいたらホテルのベッドの上にいて、すぐ近くには大人のおもちゃが置いてある。状況がのみ込めないながらも葛西を気遣う橋本だが、部下が言い出した「お願い」はとんでもないことだった…!?
「ン……」
ひどく頭が痛い。
ふかふかのベッドに寝かされている感触が背中にあって、そっと目を開けた。
見慣れない天井と不思議な形をした、シャンデリアみたいな照明が目に入る。
「課長。…橋本課長。大丈夫ですか?」
聞き覚えのある声が聞こえてそちらへ目を向ける。
部下の葛西が、Yシャツとスラックス姿で、少しだけネクタイを緩めてベッドに乗り上げていた。
あれ、確か…俺は思い出す。
今日はプロジェクトの決起集会の予定が、こいつとサシ飲みになってしまった。
さっきまで店にいたはず…と思うのに、ここはどこだろうか。
「こぉ、…、こ?」
出そうとした声が掠れる。
「ここどこ?」と聞きたかった俺の言葉を葛西はちゃんとくみ取ってくれて、返答してきた。
「ホテルです」
「ホ、テル…?」
「課長、店出てから吐きそうっていうんで」
「マジ……?」
正直全然覚えていない。
妙にすっきりした感じがしているけど、そうか飲んで吐いた後だからなのか。
部下である葛西に介抱されたのかと思うと、恥ずかしいし申し訳ない。
と、急にのどの渇きをおぼえた。
「みず…ある…?」
甘えては申し訳ないとも思うが、身体中がひどくだるい。
起きようと思えば起きられるけれど、なるべく動きたくない感じだった。
ぐるっと視線を巡らせれば、ベッドサイドに水のペットボトルが置いてあるのが見えた。
俺がそれに気づいたのがわかったのだろう、葛西が腕を伸ばして取ってくれる。
「……ん?」
と、葛西が手にしたペットボトルの横に、何か見たことのないものが置いてあった。
薄い緑色の、円柱のような形。
先端はほんのり丸みを帯びて横に傘のように張っている。…え?
俺は水を受け取ったものの、それから目が離せない。
そんな俺の様子に気づいたのか、葛西は慌てた様子で急にしゃべりだした。
「ちっちがうんです、課長!その、さっき水を買おうとしたら、部屋の自販が、その、紛らわしくて」
「……?」
「あ、あのッ!決して課長といかがわしいことしようとか、そういうんじゃなくて…!」
「え、あぁ…、ふっ…ふふっ…」
俺は思わず声を出して笑ってしまった。
そこにおいてあるものはつまり、男性器をかたどったいわゆる大人のおもちゃだった。
だけど理由はどうあれ、葛西がこんなにも必死に言い訳している。
いつも冷静沈着に仕事をこなしているタイプなのに、こんなに慌てることもあるんだなぁと思う。
「わ、わかったよ。……うん、ふっ、だいじょうぶ…だから。うん」
俺はそう言うと水をごきゅごきゅと飲んだ。
のどを潤しながら、自分の部下がこんなにも表情豊かだったんだという事実を感慨深く思う。
葛西はまだ、恥ずかしそうに下を向いていた。
その落ち込んだような様子を見ていると、なんだか俺が悪いことをしたようにも思えてくる。
俺は頑張って上体を起こすと、ベッドサイドのほうへ身体ごとどすん、と移動させた。
そばにいた葛西が驚いたように俺をよける。
「か、課長?」
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