人見知り男、唇性感帯ヤンキーを拾う (Page 2)
3ヶ月目には勇気を出して彼の身体に触れることができ、半年目でキス。1年経つと彼と触れ合うことに慣れてきたからと勢いでフェラや睾丸(こうがん)マッサージなどの抜きを頼んでみたのだが、快感よりも他人に“触れられる”ことへの嫌悪感が酷くて中断してもらう始末。今日は彼に頭を下げてのリベンジだった。あわよくば、本番までいけるかと思っていたのに、彼の口の中で放った精液を見て申し訳なさに襲われ、“ヤッた”ことにして、本番料込みの料金を支払い、店をあとにしたのだ。
1回目あんなに話し掛けてくれていたアオイくんも、俺をつまらない奴だとでも思ったのだろう。今日は一言も口を利いてくれず、黙々と仕事だけをこなしていたのがまた、やるせなかった。
(――金を払っているとはいえ、もうアオイくんには頼めねぇよなぁ…でも他の担当者に代えても、またイチから人間関係を構築するってのもなんだかなぁ)
雨は俺の気持ちを代弁するかのように強さを増していき、地鳴りのような雷の音まで聞こえてきた。早く家へ帰って、シャワーを浴びて気持ちを切り替えようと思ったそのときだ。
「うぅっ…」
すぐ近くでうめき声が聞こえた。関わると痛い目をみる気もしたのだが、俺にも人の情がある。付近を見渡すと、この土砂降りの中、若い男が自販機にもたれかかっていた。
「君、大丈夫か!?」
彼に駆け寄って抱き起すと、かなり酷い有様(ありさま)だった。誰かに殴られたのだろうか。こめかみは裂け、口の端や鼻の下には血がにじみ、頬は大きく腫れ上がっていた。おまけに泥だらけだ。
「ん…」
意識が朦朧(もうろう)としている彼からは、かすかにアルコールの匂いがした。泥酔しているわけではなさそうだが、決して治安がいいとはいえないこの場所でケンカでもしたのだろうか。
「おにーさん…誰だよ…?って、――いってぇ…」
俺に警戒したのか、身を捩(よじ)ろうとした男は痛みに顔をしかめる。
「動くなよ。身体、痛むだろ?俺は木曽豪(きそごう)ってんだ。見ての通り今は土砂降りだ。手持ちの傘が小さくてね…君の頭を濡らさないようにするのが精一杯なんだよ」
そう言って彼を傘の下に入れてやる。人見知りの俺にしては大胆な行動ではあったが、この際、怪我人をいたわってやることが最優先だ。そんな俺を見て、男は口元を緩めた。
「おにーさん…優しいんだな…その高そうなスーツ、濡れたら染みになるんじゃない?」
「ガキが余計な気、遣わなくていいから。スマホはどうした?親御さんに連絡してやるから、貸してみろよ」
――いや、ケガをしているなら先に警察か救急車だろうか。しかし、彼は不服そうにこう言った。
「ガキって…もう25だからガキじゃねぇし。つーか、おにーさんタバコ持ってない?俺ね、男に捨てられて、金ねーの。あるなら1本ちょうだい。銘柄はなんでもいいからさ」
やはり俺の勘は当たっていて、関わってはいけない人物のようだ。“男に捨てられた”と話す男の目はどこかウツロで、このままではよからぬことをしでかすかもしれない…となれば、10コ年上の大人の対応としては、彼の一時保護が妥当(だとう)だろうか。
最近のコメント