人見知り男、唇性感帯ヤンキーを拾う (Page 5)
(――コイツ、なに考えて…!?)
苦しい。熱くて、息ができない。
けれども、いつも他人に感じる気持ち悪さはなかった…そんなことより。
「ぅ…あっ…ちゅ…ぅんんっっ!!」
こちらの口腔内を貪(むさぼ)る龍春の様子がおかしい。身体に力が入らないのか、俺のアゴ下を抑えていた手もストンとベッドに落ちてしまっているし、乱れた息を吐き、喘ぎ声が止まらないのだ。それでも必死で舌先を伸ばし、俺のと自分の唾液を混ぜ合わせようとしてくる。
「んっ…ふ…や、やらァ!!」
ぐちゅぐちゅと散々掻き乱した龍春は、酸素を取り入れようと唇を離した瞬間、大きくのけ反り、前ぶれもなく絶頂に至った。
よほど恥ずかしかったのだろう。唾液にまみれた口の辺りを、手当てしてやった包帯でこすると、彼はまた目に涙を溜めていた。
「おにーさんも、俺のこと気持ち悪いって軽蔑(けいべつ)しなよ…どんなトコより、唇が感じるなんて、やっぱり“変人”なんだからさ…」
「お前、まさかそれが理由で…?」
――男に捨てられ続けているとでもいうのだろうか。
「そ。だから言ったでしょ?俺、ビッチなんだって…ペニス弄られても、アナルに突っ込まれてもイけない身体だから…『面白味がない』『マグロかよ』って飽きられて、すぐ捨てられちゃうんだよ…」
“信じられないなら、今見せてあげる”と俺が貸してやったジャージのズボンと、サイズの合わないボクサーパンツをズリ下げた彼は、あろうことか人様のベッドの上で自慰を始めたのだ。
「――ッ!ぅんっ…あぁ…!」
上ずった甲高い声が部屋中に反響する。コイツに興味なんかなかったのに、相手の行いから目が離せない。身体を弄ってもイけないという言葉通り、包皮をズルズルと動かして亀頭を裸にした龍春が、その艶(つや)めく膨らんだ部分を擦っても、透明な粘着液が漏れ出るだけだった。
苦しみのあまりか、流れる涙で傷んだ頬が濡れていく。こんな姿を見せられては、愛おしくて、守ってやりたくて仕方がなくなってきた。それなのに。
「村井さんごめんなさい!俺…ち●こでイけなくて…でも気持ちいいのはホントなんだよぉ!どうして先走り汁だけ…?なんで精液出てくれないんだよッ!!」
虚空に向かって俺の知らない相手の名を叫ぶ。別れた元彼なんだろう。彼を傷つけた元凶に違いない――なのにどうしてそんな男の名前を呼ぶ?出会ったばかりだとはいえ、世話してやってんのは俺だ。貼ってやったバンソウコウや包帯を、俺以外の男を想ってのオナニーで汚してほしくなかった。
こんな独占欲が自分の中にあるなんて思いもしなかったのだが、感情が抑えきれず、気づけば龍春を組み敷いて、ケガ人の上に跨(またが)る格好となっている。
「村井っていう奴より、俺に夢中になってみろよ…」
こんなセリフが飛び出してくるなんて、俺の方もどうかしている。いつもの情けない自分はどこへ言ってしまったのだろうか。ただ俺は彼の弱くて、可憐(かれん)で、愛すべき部分を知ったばかり。他の野郎が受け入れられなくても、俺はあの反応をもう一度見たいと思った。
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