童貞大学生はぬいぐるみ好きヤ●ザを嫁さんにしたい! (Page 5)
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「よぉ。テメェのこと、ずーっと待ってたんだぜ?」
男が再び姿を現したのは、わずか2日後のことだった。相変わらずの出(い)で立ちで、オレと衝突した電柱の前をウロついていた彼は、遠くからでも目立って見えた。関わってはマズイと踵(きびす)を返そうとしたところ…相手は突然土下座をした。
「なぁ…一晩だけで構わねぇ。お前んチに泊めてもらえねぇか…?」
威勢のよかった態度はどこへやら、見違えるほど萎縮(いしゅく)した男に戸惑ってしまう。足元には、これから海外にでも出かけるのかと思うほど大きいキャリーケース。腕の中には、先日会話をしていたテディベアがすっぽりと収まっていた。
「行くトコねぇんだよ、俺…あの日、ヘマしたことで、組から破門されちまったんだ…ヤケになって飲み明かしたら、金なくなっちまって…野垂(のた)れ死んじまう…」
狭い狭いと文句を言いながら部屋に上がり込んだ彼は、オレにようやく自己紹介を――鵡川敏だと名乗り、歳が37になることを告げた。そして、キャリーケースを開くと、いくつかのぬいぐるみをピックアップして、家主の許可なく玄関、ベッド、キッチンに脱衣所…至るところに飾りつけていく。
「鵡川さんって、ぬいぐるみが好きなんですか?」
「そうだよ。悪いか?お前にはもうバレちまってるからな。好きにさせてもらう…」
顔を真っ赤に染めてキレる男、鵡川さんが愛おしい。本当は極道の世界に入っても、ぬいぐるみを飾ったりしたかったのかもしれない。だって、テディベアに話しかけるくらいなのだから。
「ぷっ…あはは!!じゃあオレはソファで寝ることにします。鵡川さんは、その可愛い子たちとベッドで寝てください」
「ぜってぇバカにしてんだろ、クソガキ…」
悪態(あくたい)をつきながらも、彼は嬉しそうにぬいぐるみを枕の両脇に置き、ゴソゴソと布団の中に潜りこんだのだった。
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