僕は兄ちゃんの花嫁~血の繋がりなんて関係ない!~ (Page 2)

“花花”は僕が家族に隠れて読んでいた、月刊の少女漫画誌だった。当時小6の僕は、月のお小遣いの額が500円だったから、1冊買ってしまえば、他に買いたいものがあっても買えなくなってしまう。しかし、月刊誌は続きがあるから――お年玉なんかを切り崩して毎月買うようにはしていたんだけれど…兄ちゃんはそんな僕を見て“変わった奴”で済ませようとはしなかった。

『行きたくないんなら、無理に野球をしなくてもいいんじゃないのか――人形遊びも怪獣役なら付き合ってやるよ。うるさい母さんには内緒な?』この日を境に“花花”は毎月兄ちゃんがアルバイト代で僕にプレゼントしてくれたし、暇さえあれば人形遊びに付き合ってくれた。

当時18歳の兄ちゃんが人形遊びなんて、僕は彼に酷いことをしたのかもしれないけれど、それは1人遊びよりもずっと楽しくて、僕が想いを拗(こじ)らせてしまうのには充分な理由だったんだ。

*****

“諸星蒼と諸星彦は同一の父、母から生まれた兄弟である”

丸めた紙には、その旨を示すアルファベットが並んでいた。

「なんで…僕と兄ちゃん、全然似てないのに…兄ちゃんは頭もいいしさ、スポーツも万能で優しくて――彼女だっているのに!!」

そう。僕にとって、この鑑定は賭けだった。兄ちゃんが突然彼女を家に連れて来たのが3ヶ月前。とても美人で、いつ結婚してもおかしくない状況だった。

当然長男なんだから、父さんや母さんに孫の顔を見せてあげるのだろう。それが堪らなく辛くて、悔しかった。だから僕は兄ちゃんにお願いしてみたんだ。“血縁鑑定”をしてみたいと。

『それで蒼の気が晴れるなら、協力するよ。お前の望む結果になればいいな』

絶対に疎まれると思っていたのに、兄ちゃんは理由も聞かずに頷き、父さんや母さんにも『蒼を救いたい。父さんや母さんを疑っているワケじゃないから』と協力を仰いでくれたのだ。

「――僕、漫画みたいな結果にならないかなって、どこかで期待していたんだ。もし、本当の兄弟じゃなかったら…兄ちゃんを振り向かせようとして――おかしいでしょ?兄ちゃんはもうすぐ結婚するのにさ」

机に突っ伏して、むせび泣く僕の背中を相手の手の平が優しく撫でてくれる。そんなことをされたら、ますます諦められなくなってしまうのに。

「少なくとも俺は、お前と兄弟であることを証明できてよかった。いいか。血の繋がりは消えることがない。捨てられないんだよ…俺とお前には断ち切れない絆があるんだ」

兄ちゃんの目はどこか虚ろだった。めんどくさい僕相手に、疲弊してしまったのかもしれない。

「――兄ちゃん、彼女さんと結婚するんでしょ?父さんと兄ちゃんが話してんのを聞いたんだ。家を出て、同棲すんだって…僕、素直に喜べないよ…」

同棲を開始したのなら、きっと三十路前にプロポーズするだろう。兄弟いつまでも2人揃って実家暮らしなんて、そんな夢みたいな話…両親だって世間に誇れるワケがない。

僕が女々しい趣味をもっているから、兄ちゃんは結婚を選ぶしかなかったのかもしれないが…それでも嫌だ。兄ちゃんを他の人に奪われるだなんて。

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