捕食対象は愛されて (Page 2)

そもそも“鳥”のセックスは下となる側…メスが動いてしまうと成立しない。メスは大好きなパートナーから注がれる精子を微動だにせず、受け入れるのだ。これでは面白みに欠けるという奴もいるかもしれない。けど僕と彼の交尾は、そこらの野鳥が行うセックスとはワケが違う…巨体なカラスが、自分の半分以下のスズメを“労わるように”抱いているのだから。

僕たちはどう見ても“変鳥”だった。

「悪りぃ…やっぱり擦れただろ、スズメ」

待ち焦がれていた情事にうっとりとしていれば、色恋事に鈍いカラスさんが“調子に乗っちまった!”と慌てた様子で包み込んでくれる。カラスさんはやんちゃが過ぎて、群れから追い出された天涯孤独の身。その身体には野生動物と戦ったいくつもの勲章が痛々しく残っていた。

(なんでカラスさんはこんなに僕に優しいの?僕、何もしてあげられていないのに…)

カラスさんは僕とのH後、“痛がらせてごめんな”と繁華街にある高級料亭裏のゴミ捨て場から、新鮮な生ゴミを持ってきてくれる。スズメである僕はミミズや青米(あおまい)の方が好きなんだけど、彼が『一緒に長生きしような』と子育て中の親のように栄養価の高い食品を咀嚼(そしゃく)し、口移しで与えてくれるから…“特別扱い”されているようで幸せだった。きっと平均寿命が短い僕のことを、彼は気にしているのだろう。

(死ぬまでカラスさんの隣にいれるのなら、それだけでいい…)

「…ホラ、ほっぺたについてんぞ!」
「えへへ…カラスさん、大好き!」

種族が異なる相手、カラスさんと僕がなぜ恋仲になったのかというと…話は3カ月前に遡る。

*****

「ケケッ。まさか…まん丸としたスズメのガキが、自分から食われに来るとはなァ!」
「ひぇ…っ!タカさんの縄張りだなんて知らなかったんだよぉ…。このミミズ、タカさんにあげるから、許してくれない?」

この日僕は公園で生活を共にしている仲間たちから離れ、エサを求めて河川敷へときていた。僕だってお母さんから離れ、巣立った立派な若鳥なんだけど…子供のころから飛ぶのも虫を取るのもヘタクソで、群れでは笑われてばかり。おまけに他のスズメより身体が一回り小さいから、エサの争奪戦には勝てず、何日も飲まず食わずなんてザラだった。

目指した河川敷は、群れにいる長老のお気に入りの場所。人気(ひとけ)も少なく、車も通らないから、キラキラと光る水面でお魚と一緒に泳ぐカモさんや、散歩をしているサギさんと楽しいおしゃべりをしながら、ジューシーな虫を存分に味わえるらしい――ただ長老がこの話をするときは、最後に決まってこう言っていた。

『いいかね、諸君。河川敷に1羽で行ってはいけないよ。楽しいところは、危険が伴うのだから』

その意味を深く考えなかった僕は、長老の言いつけを破ってしまったということになる。

空からでもお魚がピチピチと跳ねているのが見える河川敷は、確かに鳥たちのオアシスに違いない――それは、僕に因縁をつけてきた相手、“猛禽類”にとっても同じことで、僕が足を踏み入れた場所はタカさんの縄張りだったのだ。

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