先輩の家には、大きくて可愛いイヌがいる (Page 2)
雑居ビル街や公園を抜けて辿り着いたのは、ごく普通のマンションだった。廉の自宅は、最上階の角部屋らしい。いまどきはペットOKの物件も多いしな、などと思いながら武斗は廉に着いて歩いていく。
「全然聞いてなかったですけど、廉さんのイヌってどんな感じなんですか?」
「うーん、そうだなぁ…結構大柄で、だけど顔は可愛くて」
エレベーターが小さく揺れて止まり、僅かな機械音を響かせながらドアが開く。狭い廊下に他の住人の気配はなく、エレベーターを降りて左手すぐのところに廉の部屋はあった。
「へぇ…大型犬なんですか」
「そう、それでね…」
すごく、えっちなんだ。
そう呟いた廉の顔を武斗が二度見した瞬間にはもう、目の前の玄関ドアは開いていて。
「おかえりなさい、廉くん」
呆然としたままの武斗を尻目に、出迎えてくれた裸の男の子は、何でもないかのようにキラキラ笑っていた。
*****
廉に飼われているという叶太(かなた)は、武斗が家に上がってからも変わらず裸のままだった。厳密にいえばパンツだけは履いているのだが、かろうじて性器を覆っている布部分以外は細い紐があるのみ。その布でさえ薄らと透けている有様で、廉との服装のギャップが凄まじかった。
「武斗くんは、男性経験あるの?」
「ないです…女の子しか、ないです」
「そっか。ごめんね、廉くんのせいで。いきなりでびっくりしちゃったよね」
「今も、びっくりしたままです…」
叶太は初対面の武斗に対して物怖じするでもなく、まさに人懐っこい犬のような態度で話しかけてくる。混乱したままの勢いで廉の家に上がってしまった武斗は、帰るタイミングを完全に逃していた。危害は加えられなさそうであるが、出された麦茶に口をつけるのを躊躇(ためら)うくらいには緊張している。
「い…椅子、座らないんですか? そっちの、ソファとか」
「僕は床でいいよ。ご飯もここだし」
椅子に座っている廉に対して、叶太は当たり前のように床へと腰をおろして麦茶を飲んでいる。部屋を見渡せば、テレビボードの向こうにはペットシーツも敷かれており、よからぬ想像を巡らせた武斗の心拍数は急上昇していく。
「れ、廉さん…あの、俺…」
「武斗くんは、叶太のことどう思う?」
「ど…どうって」
「…可愛い、でしょ?」
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