かわいそうで、かわいいもの (Page 2)
「…お前、狼人間か?」
耳やしっぽから見ると、狼の特徴がよく出ているので咄嗟にそう質問した。
正直、それより俺は目の前の獣人の容姿に一瞬を目を見張った。声や体つきから察するに20歳あたりの男だが、それにしても童顔で細身で、どこか頼りない印象を抱かせる奴だった。
こちらを睨みつけるこぼれ落ちるような大きな目には、涙の膜が張っている。
獣人といえば凶暴というイメージが強かったが、目の前の奴はそれと正反対だ。
「み、見て分かるだろ…っ、あんたは何者だ!」
青年の獣人は、獣の耳を平らにして明らかに威嚇していたが、足を罠に挟まれたせいで弱っているのか迫力はない。
足首まである革靴を履いているので出血はしていないようだが、トラバサミの牙がかなり深くまで食い込んでいるようだ。
金色の髪は、痛みに誘発されたらしい汗で濡れて額に張り付いている。脚の怪我がじわじわこいつの身体を蝕んでいるのは明らかだった。
「その罠仕掛けた猟師だけど…まさか獣人がかかるとはな…」
「くそ…っ、殺すなら殺せよ…」
こんな分かりやすい獣用の罠にかかる獣人がいるなんて、初めてだった。相当ドジな奴らしい。
彼は、自分の運命を予想し絶望しているのか目をぎゅっとつむり俺の反応を見ているようだったが、いざ目の前にしてみるとほとんど人間である獣人をいたぶるなどという欲求は湧かなかった。
ただ、その代わりにあることを思いつく。
「別に殺さないよ。後処理が面倒だし…」
「…」
「それより手当てしてやるから、俺んとこの山小屋来いよ」
「…行くわけないだろ…っ」
「なら、罠外してやらないけど?」
獣人は俺の言葉に怪訝そうな表情を向けるが、やがて諦めたように頷いた。
やっぱりこいつ、ドジみたいだ。
俺は心の中で密かにほくそ笑んだ。
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