噛んでください、お兄さまっ!
母親の再婚により、連れ子である蒼依と同居生活をすることになった雪翔。しかし問題は、蒼依がアルファで雪翔がオメガであること。ひとつ屋根の下でアルファとオメガは暮らしていけるのか――
俺には義理の兄がいる。母親の再婚相手の連れ子だった、蒼依(あおい)。俺は偉そうな態度をとる蒼依に嫌悪感を抱いていた。
たとえ血の繋がりはなくても兄弟になった俺たちだが、ひとつだけ問題点があった。
それは、俺がオメガで蒼依がアルファであることだった。ひとつ屋根の下で暮らすには難しいものがあった。
*****
「雪翔(ゆきと)、お母さん、健吾さんと再婚することにしたの」
「再婚……?」
今まで女手ひとつで大学進学までさせてくれたんだ。もうやすませてあげてもいいかな、と俺はその言葉を飲んだ。
義理の兄になる蒼依は性悪で、ことあるごとに嫌がらせをしてきた。最終的に、「俺の方が兄貴だし。アルファだしな」で言いくるめられる。
しかし――俺はそのとき気づいてしまったのだ。
匂いでわかる。
蒼依が、魂の番であると。
*****
「おい、雪翔〜。お前のこの抑制剤、捨てちゃっていい?」
「おまっ、俺がオメガだからって何をしたっていうんだよ! 返せよ!」
蒼依はアルファだ。なんでもできて、優秀。それに比べて俺はオメガ。大学の勉強だって必死だ。
「なんなら今ここで噛んでやろうか?」
「〜〜っ」
必死に抑制剤を取り返そうと蒼依に飛びつくも、蒼依とは身長差もあるし届かない。遊ばれているだけだ。
「雪翔、しつこい」
「え?」
バサッとベッドに押し倒される。
「いいか? 俺の方が戸籍上兄なわけ。そんな生意気な態度とってていいの?」
「う、ぁ」
蒼依が俺の耳をカプっと噛んで、舌で舐めまわしてきた。吐息とクチュクチュという音で頭がおかしくなりそうだ。
「やめっ、あぁっ、あお、い!」
「んー……? お兄ちゃん、だろ?」
「誰が……ひっ、ぁ……呼ぶかっ……」
「おら、服脱げよ」
「なんっ……で」
耳元で囁かれる蒼依の声に、皮肉にもゾクゾクしてしまう。
「あーあー、はいはい。わかったよ。じゃ、こっちな」
蒼依はそう言うと、反り勃った自身を俺の口元に運んできた。
――でか。
「しゃぶれよ。気持ちよくしてくれたら抑制剤も返すし、噛んでやるよ。これから俺とお前は番になって毎晩毎晩鳴かせてやる」
「へぇ……随分と偉そうだな、お兄ちゃん? 俺が蒼依の秘密を知らないとでも?」
*****
俺は番が欲しいわけじゃなかった。
けど、一緒に住むようになったこの蒼依はかっこよくて、運動神経も抜群の、さすがはアルファ様だと言うしかないほどの人間だった。
しかし、たまたま街を歩いていた時だった。
俺の母親と、蒼依がラブホテルに入っていくのを目撃してしまったのだ。
その晩は吐き気でどうしようもなかった。
この秘密は、墓場まで持っていこうと誓ったんだ。
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