可愛い僕の愛しい元彼
小さい頃から「可愛い」と言われて育ってきた瑠璃。女の子のような容姿と名前の彼には、高校時代の苦い思い出があった。大学生になったある日、「瑠璃に片思いをしている」という男が現れる。それは、瑠璃の高校時代の元彼で……。
小さい頃から、「可愛い」と言われるのは楽しかった。姉二人に囲まれて、洋服を着せ替えられたり、髪を結ばれたり、メイクをされたりするのは、くすぐったかったけど、大好きな時間だった。
「男っぽくないよね、瑠璃ちゃん」
大学三年になって、同じゼミになった日高さんはそう言って笑った。ゼミ終わり、一緒にご飯を食べようと誘われたのについて来たらこれだ。
「瑠璃ちゃんって……」
瑠璃、というのは僕の名前だ。名付けた父親曰く「瑠璃色は地球の色だ。男も女も関係ない」らしいけれど、小さい頃はよく女の子みたいな名前だとからかわれた。
「私の知り合いがさ、瑠璃ちゃんのこと気になってるらしいんだよね」
知り合いっていうか、サークルの同期なんだけど。そう言い直して、日高さんがカレーを頬張る。大学の近くにあるインドカレー屋は、頼んでいないのにおまけのデザートがついてくるから人気がある。
「サークルの同期?」
「そう。瑠璃ちゃんのこと、理想なんだって」
「理想って……」
生まれて初めてそんなことを言われて、驚いてしまう。日高さんよりも辛くないものを選んだカレーを口にしながら苦笑した。
「日高さんには悪いけど」
「瑠璃ちゃんには悪いけど」
僕と日高さんの声が重なった。同じ言葉を口にしていることに気がついて僕が「え」と言うと、日高さんがにっこりと笑う。
「もう、来てるから」
スプーンで僕の後ろを指されて、思わず振り返る。そこには、見覚えのある顔をした大柄な男が立っていた。
「中島恭弥くん、二十一歳。瑠璃ちゃんに片思い中」
日高さんが楽しそうな声で紹介したソイツのことを、僕はよく知っていた。
「瑠璃」
彫刻のように整った顔をした男が、僕のことを呼んだ。僕は思わず肩を跳ねさせる。
中島恭弥といえば、うちの大学で知らない人はいない。間違いなく大学で一番美しい顔をした男で、女子からの人気がすごいからだ。それなのに女子にはあまり近づかず、男子とばかり気さくに喋っていて、男子からも慕われている。
そんな、完璧すぎるほど完璧な男。
「……恭弥」
僕の、元彼。
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