有名人は大変なんです
蜂谷(はちや)タケルは抱かれたい有名人3位に入るほどのカリスマモデル。軽い気持ちで始めたモデルの仕事だったが、タケルはついに俳優デビューが決まる。しかし記者だと名乗る中川にある日突然もてあそばれてしまう――
スタジオ内にカメラのシャッター音が響き渡る。
「おー!やっぱスーパーモデルは違うね!」
子供のときの将来の夢はバスの運転手だったけど、なぜかいまこうして俺は人前に立っていろんなポーズを取り、写真を撮られている。
俺は誰もが知る有名なファッションモデルになった。
きっかけはよくあるスカウトっていうやつで、面白半分で話に乗って…というか、話のネタになればいいとか、そういうからかいもあった。
だから俺は軽い気持ちでこの業界に来たわけで、のし上がってやるとか、有名になりたいわけじゃなかった。
どうせ将来は社畜…なんて思っていた。
「はい!お疲れ様!」
カメラマンの声が響き渡る。
「お疲れ様です」
「おー、声もイケメンだねー。今度、俳優デビューするんだって?」
肩を叩かれ、耳元でささやかれる。
雑誌だけではなく、バラエティ番組にも出演するようになった俺は、声質も褒められるようになり、俳優のオファーが来た。もちろんいきなり主演なんて飾れるわけもなく、主人公のベテラン俳優の弟、という役柄だった。
それでも俺は嬉しかったし、喜んで引き受けた。
なりたくてなった職業じゃなかったけど、ひとつこの仕事をしていてよかったことがある。
…とにかく女にモテる、ということだ。
ここまで知名度がなかったときでも、街を歩いていたら可愛い女の子から声を掛けられることはしばしばあった。
厳しいモデルの世界だから、どうせすぐに消えるだろうと思っていた俺は簡単に連絡先も教えていたし、そのままホテルにも行ったりもした。
そんなこんなで女なんてとっかえひっかえで、底辺でもモデルという肩書はすごいと俺は有頂天になった。
*****
「蜂谷さんですよね?」
休日、完全プライベートで駅前通りを歩いていたとき、突然声を掛けられた。
こんなことはすっかり慣れっこになっているので、
「はい、そうですよ~」
と相手の顔も見ず、軽い感じで答えた。
「週刊誌の記者の者です。俳優デビュー、おめでとうございます」
驚いた俺が振り返ると、俺より少し年上だと思われる男性が立っていた。
「…あぁ、ありがとうございます」
またしょうもないスクープを記事に書かれると思った俺は世間のイメージを壊さないようにそれなりの態度で質問に答えた。
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