有名人は大変なんです (Page 2)
よく見るとその記者だと名乗る人物は右手に小さなハンディカメラを手にしている。
…ああ、写真も載せられるな。
こうやり取りをしている間も何人もの人達がすれ違ってゆく。
「ここでは場所が悪いですかねぇ?ちょっとあそこで涼みません?」
記者が遠くを指さす。その指先にはラブホテルの看板が見えた。
「なにいってるんですか!」
驚いた俺は思わず大きな声を出してしまう。
「いや、僕個人として蜂谷さんに興味があるんです。取材させてくれませんか?」
おちょくるような口調で俺をイラつかせる記者。
わざと低い声を出し、記者をにらみつける。
「…事務所通してください」
と、足早にその場を立ち去ろうとするが、手首を掴まれ、ラブホテルの看板がみえる路地裏へと無理やり連れ込まれる。
「…ちょっとお話聞かせていただくだけですから」
*****
ほぼ無理やり連れてこられたラブホテルはまだ新築の匂いがするほど新しかった。
「…で、そもそもあなたはどこの誰さん?」
黒い皮張りのソファに腰かけ、俺は言った。
「それは失礼しました。私、こういうものです」
スッっとソファ前にあるガラステーブルの上に名刺を滑らせる。
その名刺に目をやると、誰もが知っているゴシップ週刊誌の名前。
“記者 中川 俊也”
「ふーん。中川さんっていうんだ」
「さっきとは違ってずいぶん肝が据わってますね。人目がないから?」
「芸能人ってそんなもんだよ。で、俺をどうしたいの?」
中川はクックック…と喉を鳴らして笑う。
「蜂谷さんはさぁ…男としたことある?」
「…はぁ?」
いきなり何を言い出すんだこいつは。
「僕ね、両方いけるんだよね。男も女も」
笑っているようで笑ってない目…をする中川。闇を感じてゾッとする。
「蜂谷さんはさぁ、モデルさんなだけあって綺麗な身体してるよね。いつも雑誌で拝見させてもらってるよ」
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