はじめてをいただきますっ!
広瀬拓也が目を覚ますと隣に寝ていたのは、顔と名前くらいしか知らない他部署の後輩、仲本綾人だった。しかも二人して真っ裸で…この状況から考えられるのはただひとつ。逃げ出そうとする拓也に、綾人は「好きだった」と告白する。責任を取ってほしいと言われ腹をくくった拓也は、もう1回を受け入れることにする。
やってしまった…またしても…
広瀬拓也はひどい頭痛に目を覚まし、目の当たりにした現状に頭を抱えていた。
――なんで、都内にこいつがいるんだ?しかもマッパかよ!いやオレもだけど!
実を言えばこれが初めてという訳ではない。これまでにも何度かお持ち帰り、その逆も然り、確かにあった。
――あるにはあったが隣にいたのは間違いなく女の子だった。それがどうだ?今隣で寝ているのは、なんとなく顔と名前だけは知ってる程度、ちょっと付き合いの長い他部署の人間ではないか。
――しかも、男、仲本綾人。
酒に飲まれて記憶はなくても、これまで性別までは間違えたことはなかったのに!!
今のうちにこっそり帰っちまおうか、ここ多分コイツんちだよな?どのあたりだ?
部屋を見渡すと、遮光カーテンの隙間から差し込む朝日で辺りの様子がうっすらと見てとれた。
男の一人暮らしの割には片付けられた寝室は、自分と綾人の横たわるセミダブルのベッド、その横にテーブルがひとつ。テーブルの上には飲みかけのミネラルウォーターのペットボトルと、自分の腕時計があった。時刻は7時を過ぎたところだ。
隣に眠る顔と名前しか知らない男を起こさないよう静かに身体を起こすと、窓際に歩み寄り、外を見回した。
――アレ?あのコンビニ見覚えあんな?もしかしてわりとウチの近所か?
ワンブロック先に見える風景は見覚えがあり、どうやら自分の家の近所のようだったとわかると、拓也は速やかに帰り支度をしようと決めた。
――女の子だったらまた責任とかなんとかあるけど、男同士なんて気まず過ぎる!ここは一時撤退だ!
生々しく散らかった衣類の中から探し出したパンツを片手にテーブルの腕時計に手を伸ばした瞬間、横から突然伸びてきた手に掴まれた。
「…っ!!お、お前起きてたの…?」
「はい、だいぶ前から…」
なんて言っていいかなんてわからないまま、固まってしまった拓也の腕を、綾人はしっかり掴んだまま離さなかった。
「帰るんですか?何も言わないで?」
「あははは…あ、いや、そんななんというか、とりあえずマッパはねって、あはは、は…」
図星を突かれた拓也はしどろもどろになりながらも誤魔化した。
「ま、ほらさ、俺たち男同士だし?別に大した付き合いも今までなかったし?とりあえずはさ、ほらお互い今日のところはなかったことにしてまた明日から仕事――」
「明日は休日です」
言い終わらない内に、綾人が強めの口調でピシャリと遮って言った。
「ひどい、広瀬さん…なかったことにするんですか?」
泳いでいた視線を綾人に定めると、彼はうつむき今にも泣きそうな感じだ。 見上げる綾人の瞳には、すでに涙が溜まっている。
――しまった〜間違えたな…人に泣かれんの苦手なんだよなーうーん。沈黙が重いけどなんと言うべきなんだオレ?
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