すれ違いの愛 (Page 2)

「雅紀は仕事と私どっちが大事なのっ!」

あー、また来た。春は少々心も女寄りだからヒステリック気味なところもある。

「雅紀は私のこと嫌いなのぉ?」

「嫌いじゃないよ」

ボロボロ目から涙を流し、

「そもそもエッチは毎週金曜日ってゴミ出しの日みたいっ! 雅紀のインポ野郎! 大嫌いっ!」

ものすごい音を立てドアを閉め、立ち去る春。
自分の部屋に籠もり、むせび泣く声が俺の部屋まで聞こえる。

…俺は深いため息を付いた。

*****

「ただいまー。春ー?」

その日仕事を終え、玄関から声を掛ける。
だが、返事もないし部屋の中は真っ暗だ。
ひとつひとつ電気を付けて行くが全く人の気配もないし、夕飯の支度もされていない。

「春ー?」

…居るとしたらここしかない。
春の部屋のドアをノックし、中へと入る。
ここも電気は付けられず真っ暗だった。

「居るの?」

電気のスイッチを付けるとベッドの片隅で顔を伏せて体育座りをし、眠りこけている春が居た。

「春? 春? …寝てたの?」

肩を叩く。
部屋の光がまぶしいのか目を細めながら俺の顔を見る。

「…うん。バイトさぼっちゃった」

春の目は真っ赤に腫れあがっていた。

「だから…ごめんね私…ここ出ていくから」

「…は?」

突然の言葉に混乱する。
目が慣れたようで真っ直ぐ俺の目を見て

「私、雅紀の負担にはなりたくないの。だから…ごめんなさい」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 突然そんな…それにほら! 春の好きな”なんとか”っていうちょっと高いチョコレート買ってきたんだよ? 今日はたくさん種類が入ってる一番大きいやつ!」

春が大好きだと言っていた高級チョコレートが入っている紙袋を差し出しても受け取るそぶりも見せない。

「”なんとか”ってなによ。私は雅紀が好きな腕時計、ビジネススーツと靴のブランドの名前、ぜーーんぶ一言一句間違えずに覚えてるわよ」

しょんぼりとした口調で言ったと思ったら、急に立ち上がり、カーテンと窓を開け、
「これ、私が好きなチョコじゃないわよ! パッケージのデザインからなにからなにまで違うじゃない! こんなものいらないわよ!」

乱暴に紙袋を奪い取るとそのまま窓の外へと放り投げる。
ここは12階だ。チョコレートはもう助からないだろう。

目の瞳孔をカッと開き、
「もう雅紀の顔も見たくない! 明日には出ていくからっ!」
耳をつんざくような声で言った。

…俺はもうなんと言っていいのかわからなくなっていた。

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