今夜、義弟に犯されます (Page 8)
無我夢中に、身体を繋げる二人がスマートフォンから鳴る微かな通知音に気付けたのは奇跡に近かった。
スラックスのポケットからスマホを取り、『これから帰る』というメッセージを見て名残惜しさを感じつつ身体を離す。
裏切りはしても、妻との関係を壊したいわけでなかった。
不貞行為を働いた直後だというのに、二人は至って冷静で、純一がシャワーを浴びている間に圭人は掃除と、証拠隠滅のために動いていた。
跡形もなく片付いたソファと稼働する洗濯機。
すべてが終わり、姉の帰宅前に出て行こうとする圭人を見送りながら、純一は取り戻した非日常を再度手放す寂しさから目を伏せた。
「もう、こんなことは…」
「やめるわけねえだろ」
遮る声には呆れが含まれていた。
「また来る」
義兄さん、と圭人は不敵に笑い、戸惑う純一を置いて玄関から出て行った。
ドアが閉まると同時に、両手で顔を覆う。
また来る――告げられた言葉を反芻(はんすう)し、ついニヤけそうになる顔を引き締めた。
間もなく妻が帰宅する。その前に、この胸の高鳴りを静めなければならないというのに――。
日常と隣り合わせの非日常。その事実に、純一はひとり興奮していた。
Fin.
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