あいつと俺の公然な関係
斎藤巌男(さいとういわお)は桃橋大学キャンパス内でも有名な札付きのワル。しかし巌男の天下は、キャンパスに出水沢静(いずみさわしずか)がやってきたことで終わりを告げる。静は巌男に「おまえを俺の犬にしてやろう」と言ってきて…。
男、斎藤巌男。名前も古風であるならば、見た目も古風だった。
いでたちは昭和のヤンキーを連想させ、髪型は今風に整えたリーゼントだ。その下にある顔は少し幼げではあるものの、鋭い眼光がその柔らかさを打ち消している。
巌男は、キャンパス内やその近所でも評判の、札付きのワルだった。
…それなのに。
「んんっ…んぐうぅっ、んー!」
「いいぞ…なかなかうまくなったな…」
「は…ん、クソ…っ」
巌男はキャンパス内の倉庫の中で、何と男のペニスを喉深く受け入れていた。
眼差しひとつでそこらの男子を震え上がらせると評判の目元は、とろんと溶けて虚ろだ。
いつもは威勢のいい文句を矢継ぎ早に吐き出す口には、血管を浮き上がらせて勃起したペニスが何度も出入りしている。
巌男のリーゼントを掴んでいるのは、目立つブランドものの衣服に身を包み、細いメガネの奥に欲の炎を点している男だ。
見る人が見れば、彼が出水沢財閥の御曹司、出水沢静だと気づいただろう。
水と油、本来は決して交わらないはずの二人は、いつからか体を交わし合う関係になったのだ。そのきっかけは、巌男と静が進級した四月に遡る。
巌男は名実ともに、桃橋大学の頂点に君臨していた。
誰も自分に意見を言うものはいなかった。それは講師や教授でさえもだ。
誰もが巌男のことを畏怖し、近隣のワルたちからケンカを挑まれてもすべて返り討ちにしてきた。
君臨しても群れることはない。一匹狼だった巌男の世界を変えたのは、純白のリムジンに乗ってキャンパスへと現れた、出水沢静その人だった。
出水沢財閥の御曹司。生まれながらにして帝王の座を約束された男は、微笑みながら巌男の世界を変えていった。金や権力、言葉の力で学生たちや教授、果てはトップの理事長までをも支配下に置いていった。
逃げる獲物を追い込む猟師のごとく、静はなかば遊び半分で巌男を追い詰め、こうして手籠めにしてしまったのだ。
巌男は何度も勝負を挑んだが、勝てたことがない。この御曹司はケンカも強いのだ。何度目かの敗退の後、呆然とする巌男に、静は笑いながら言った。
「おもしろいやつだ。…楽しませてくれた礼として、おまえを俺の犬にしてやろう」
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