長いおあずけ (Page 2)
「ガキが高等テクを…」
顔を真っ赤にした聡太が口に手の甲をあてがって悔しそうに秋斗をにらむ。
「残業しねーでまっすぐ帰ってこいよな、ダーリン」
秋斗が語尾にハートマークでもつきそうな甘ったるい声音で恋人を見送る。
バタン、と乱暴に閉められた玄関のドアを見つめて、早くも熱を持ちそうな体を心の中でたしなめた。
*****
聡太と秋斗は、元教師とその教え子である。秋斗が高校3年になる年に赴任してきた聡太に一目惚れし、猛アタックを繰り返した甲斐あって、秋斗が卒業したら付き合いを始める、ということで落ち着いたのだった。聡太はいわゆるバイで、恋愛対象は男でも女でも、そのときによって違った。一方秋斗は聡太に恋をするまで恋愛対象は女だったし、どちらかといえば奔放で女が途絶えたことはなかった。要はモテるのだ。その秋斗がある日を境にキッパリと女遊びをやめたものだから、その様子は学校の七不思議としてしばらく語られることになった。
付き合う、といっても当時秋斗は18歳。どんな間違いがあっても性行為だけはしないと、聡太は未熟な恋人に言い聞かせていた。俺を犯罪者にするな、20歳になるまでは何があってもだ、と。秋斗が高校を卒業し、大学へ進学すると同時に、聡太の部屋に半ば転がり込むような形で同居が始まったわけだが、寝室は別だし、風呂上がりだってしっかりパジャマを着た姿しか見ていない。秋斗は、長い長い「待て」を強いられていたのだ。
何度か我慢ならなかった秋斗に襲われかけて、「お前のハタチの誕生日には俺を好きにしていいから」と聡太が提案したのは同居を始めてひと月ほどのことだ。その言葉を信じて秋斗はおよそ2年、入念なイメージトレーニングを重ねながらじっと耐えていたのだ。
*****
とうとう約束の日が来てしまったと、勤務先に向かう車の中、聡太のハンドルを握る手が汗ばむ。「誕生日おめでとう」と聡太自ら切り出したのは、多少の期待もあったに違いなかった。
「男に二言なし…だよな」
自分に言い聞かせるように呟いて、聡太は前を見据えた。
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