幼馴染の拗らせが転生しても治りません! (Page 4)
悔やんでも悔やみきれない。あの優しい秀斗が…どんなに辛くても傍にいてくれた恋人が隣にいないということは、俺自身の生きる価値も失ったように思えた。看護師という夢を叶えられたら、同棲ぐらいはしてみたいな、なんて願いすら無駄となる。
(俺なんか助けなくてよかったんだよ、秀斗…生きる価値があったのは、お前だったのに――)
こうして毎晩ベッドにもぐりこんで、声を押し殺しては泣き崩れるのだ。
*****
「オレがいなくなったからって、いつまでも泣くなよ、ゆーき」
(え…?)
酷く身体が重い。このまま眠りについていたかったのに、頭上でアイツの声が聞こえた気がした。ここで起き上がらなければ、一生後悔するだろう。なんとか目を凝(こ)らすと、真っ白なこの部屋の中央に自分が寝かされていることに気づいた。
頬にひんやりとした感触を受ける。ゆっくりと視線を動かせば、彼――秀斗の顔が見えた。
「よぉ、ゆーき。久しぶりだな!元気にして…るワケねぇか…」
最期のときとは異なり、秀斗には痛ましい傷跡なんてひとつも見当たらなかった。
(これは夢か…?)
彼が目の前にいる喜びが大きく、つい抱きついてしまう。体温は感じられなかったのだが、『よしよし』と髪を撫でてくれるそのしぐさは、秀斗その人のモノだった。
「ゆーき。今日は俺が死んでちょうど49日目なんだよ。あの世では死後49日経てば、大切な人の夢枕に立つことを許される。それでオレはここに…お前の夢の中に出てきたってワケ」
ケラケラと笑ってそう告げる秀斗は、死んでも以前と変わらず、穏やかだった。
「俺のこと、恨んでるだろ?1人生き残りやがってって…!!頼むから、俺を一緒に連れて行ってくれよっ!!どうして秀斗が死んで、俺だけ生き残っちまったんだよっ!!」
声を荒げて、秀斗に掴(つか)みかかる。彼に伝えたいのは、こんなやさぐれた言葉なんかじゃないのに。
「…ゆーき、ごめん。オレが黙って死んで、お前は苦しんだよな?お袋も何も罪のないお前を責めて…もう少ししたら、お袋の夢にも出てやるんだ。『オレの恋人をこれ以上苦しめたら、地縛霊になって、末裔(まつえい)まで呪うぞ』ってオドすつもりだから」
「こ、こいびと…って、それは秘密にすんだろ!死んだからって好き勝手言ったら承知しねぇぞ!!」
こぼれる涙を堪(こら)えることができない。葬式にも参列したかったのだが、母さんに止められたのだ。“秀斗くんのお母さんの気持ちも考えてあげなさい”と。彼の母親は、ヒステリックになり、やつれきっていた。生き残った俺を見てしまえば、ますます辛い思いをするだろう。
だから、事故現場に赴(おもむ)いて、花や秀斗の好きだった炭酸飲料をたむけ、手を合わせるしかなかった。
今なら彼が目の前にいるのに、なぜ『ありがとう』の一言も言えないのだろう。
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