不機嫌な君と

・作

体液の交換で魔力の譲渡を行う、そんな世界にて。大地の魔術師トールはその日、知り合いに性交による魔力譲渡を頼んでいたが、風呂から上がると彼がいない。代わりにいたのは、かつて通った学院の同級生・セラ。不機嫌一色の彼は、先にいた男を追い出したらしい。かみ合わない会話の果て、トールはセラに押し倒されて――。

自宅のソファの上、タオルを腰に巻いただけの私。
現在、急に押し倒された展開にひどく混乱中だ。
たしか、ようやく風呂から上がり、魔力譲渡のために交わる、そういう流れだったと思う。

――ただし、相手は目の前の男ではなかったはずだ。

*****

この世界には、魔力が満ちている。その特別な力をその身に取り込み、属性の力を付加する存在を「属性魔術師」という。私は大地の魔術師だ。普段は大地の力をもって森を管理しているのだが、ときに風の魔力を必要とする。よどんだ空気の入れ替えをするのだ。

軽い操作は自前の魔力で可能だが、どうしても細かな調整が必要なときは、この身に風の魔力を譲渡してもらわねばならない。方法はキスでもいいが、性交を通じての体液の注入が一番短時間で済む。

私の場合は、そう頻度は高くない。田舎は魔術師の数が少ないから、今回も知り合いになんとか予定を空けてもらえたのに、風呂から上がると彼はおらず、なぜか目の前のこの男がいた。

「セラ、帰っていたのか。…シアンはどこへ?」

「追い出したに決まってんだろ」

美しい顔を不機嫌にゆがめて、セラは答えた。
森から離れない田舎者の私には縁がないが、ファッション誌の表紙を何度も飾っているらしく、180センチを優に超える身長と、それに見合った鍛えた体、彫刻のように整った精悍(せいかん)な顔の持ち主である。子供っぽく短気なところが玉に瑕(きず)だ。

――せっかく頼まれてくれたのに、シアンに悪いことをしたな。

「…帰ってくれないか」

傍若無人な振る舞いに、温厚だといわれる私もさすがに語気を強めた。

「帰らねぇよ。おまえがそんな恰好してるってのに」

「この格好は今しがた風呂に入ったからだが?」

「…おまえ、マジかよ」

盛大にため息をつかれた。

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