噂をすれば影がさす
とある大学に通う大学生の新一 (しんいち)はアルバイトに明け暮れ、単位がギリギリ。ある日大学に行くと高校時代からの友人、光博 (みつひろ)とばったり会う。すると光博は“うちの大学にはある噂がある”と言い出し――。
「あー、やっと帰れる…」
昨日行ったライブスタッフのアルバイトはキツかった。
物販の売り子をした後、会場の片付け。
力仕事な上、立ち仕事でもあり自宅に着いたときには日付も変わっていてクタクタだった。
最近名前をよく聞く大人気アイドルグループのコンサートだったが俺は正直皆同じ顔にしか見えず、物販の売り子をしたとき頭が混乱した。
もたついてしまうとファンの女の子に「だから〇〇くんだって言ってるでしょ!」と大声で嫌味を言われたりもした。
どうやら人気があるメンバーは早めに売り切れてしまうので必死らしい。
全身筋肉痛で、歩くだけでもしんどい。
ライブスタッフのアルバイトを軽く見すぎていた。
今日の講義は出席重視で本当は休みたかったが休めなかった。
ただでさえ単位がギリギリな俺にとっては致命的だからだ。
うちの大学は歴史が深く、そのため建物も古い。
あちこち隙間だらけの講義室もあり、真夏にクーラーを付けても暑かったり真冬に暖房を付けてもすきま風のせいで無意味だったりするレベルだ。
ここまで支障が出るのなら改装すればいいのにと思うのだが、古い建築物も大学の売りだから、という理由で改装しないらしい。
「…あれ、新一来てたんだ」
出入口に向かって歩いているとき突然背後から話しかけられ、少し驚く。
「おおっ! 光博、驚かせるなよ」
「あ、ごめん…でも新一に会うの久しぶりだったから…」
光博とは高校からの付き合いで大学の学部学科は違うが、大学で一番の友人だ。
「今日はたまたま出席重視の講義だったからだよ」
「お前、単位大丈夫なのか? 就活は?」
「まぁまぁ…それより光博は彼女とどうなったの?」
光博にはバイト先で知り合ったゴリゴリのお嬢様学校に通う同い年の彼女が居る。
だが、その彼女はお嬢様がゆえ20も年上のおっさんに目移りしてしまい、別れを切り出された…というところまでは聞いていた。
「別れたよ…経済力が違い過ぎるよ…」
大学生にはとても買えないようなブランド物のバッグやアクセサリーや海外旅行のプレゼント。挙句の果てには彼に支えてもらうと言い残し、アルバイトも辞めたと光博は苦笑いで話す。
「それ、すごいな」
「おっさんは彼女にメロメロみたいだよ」
「あはは…」
最近のコメント