大失恋したら人生変わりました
10年間付き合っていた彼に別れを告げられた速人(はやと)。しかも自分の子供が欲しいという理由で女性と浮気をしていたと告白。すでに妊娠までしているという。将来のことまで考えていた速人は自暴自棄になり不特定多数の男性とセックスをしていたところ、とある男性と出会い――。
「あっ…ああ!」
僕は無我夢中でその日出会ったばかりの男性とラブホテルでセックスをしている。
悔しかった。彼のことが好きで好きでたまらなかった。
でもどうして?あんなに好きだ、愛していると僕に言ってくれたじゃないか。
*****
つい1週間前、僕は10年付き合った彼に別れを告げられた。
「やっぱり自分の子供がほしいと思った。だから…」
と、僕と同時進行の彼女が居たとのこと。
しかもすでにお腹の中には…と。
頭の中が混乱した。
ただ彼を責めることしかできないほどに。
「子供がほしいっていうのはわかるよ!? でも女ともエッチしてたの!? 僕はゲイだ、って言ってたじゃん!」
10年前にはパートナーシップ制度という言葉すらなかった。
だからこの制度を利用して家族になろう、と話をしていたところだった。
ようやく堂々と自分をさらけ出せる、そう思っていたのに。
彼は僕がなにを言おうとごめん、としか言わなかった。
*****
「もっと奥までぇ…!」
「やけに積極的じゃん」
「僕、エッチ大好きなのぉ」
相手は僕より少し年上に見えた。
「もっとぉ…! ああん!」
エッチが好き、というのももちろん彼とのエッチオンリーだ。
こんなよく知りもしない相手とするエッチなんて好きでもなんでもない。
一刻も早く彼のことを忘れたかった。
10年間という時間はとても長かった。
彼に別れを告げられてからこうやって素性も知らない男に抱かれ続け、もう5、6人目だろうか。
相手の荒い息づかいが耳に響く。
「つっ…! くっ!」
誰でもいい。空っぽになってしまった僕の心の中に欲をぶちまけてくれるのなら。
*****
「…なんかあったの?」
肌を重ねた後、背を向け横になる僕に訪ねる。
タバコのにおいが鼻に付く。
「なにもないですよ」
「…そう? なんか訳アリって感じだけど?」
今度は深くタバコを燻らす息が聞こえる。
「ただ…無性にエッチがしたくなっただけです」
「ふーん。ならいいけど」
ジュッ、と灰皿にタバコを押し付け火を消す音がやけに耳障りに感じてしまう。
ああ、そうだ。彼はタバコが大嫌いだったんだった。
「そういや名前聞いてなかった」
「…速人です」
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