月明りと媚薬の罪と罰 (Page 3)
「停戦協定──?」
族長に呼び出された先に、集う獣人族内の権力者たち、そして人間達。
恐らく、万一の有事の際、鎮静部隊として自警団の実力者として呼び出されたのだろう。また、簡単に替えもきく。
「人間側としても、人間同士のいざこざが耐えなくてね。君達が攻め入る様な事をする種族では無いのは重々承知の上だが、万に1つということも有り得る。それならば安心を買いたい、と思ってね」
薄ら笑いを貼り付けた飄々(ひょうひょう)とした男が1人、よく通る声で申し出た。
「…オレ達は所詮替えのきく立場だ、族長達が決めた事には口を出さないが──」
「ボク達を裏切れば当然報復があるとわかった上だね?」
普段、柔和なルカが嫌に攻撃的な態度でそう切り出した。
「もちろん。わかっているさ」
人間の男はくすりと笑い手を叩くと、ぞろぞろと荷物を持った人間達が入って来る。たくさんの食べ物、酒、宝飾具──。
(なぁ、ルカ)
小声で話し掛ける。
(どう思う?)
(まぁ、いいんじゃない?族長が決めた事だし、例え毒だとか薬入ってたとしても耐性はあるから大事にはならないんじゃない?)
(──それもそうか)
その判断が、甘かったと言わざるを得なかった。
*****
ぐにゃり、と歪む視界の中、同胞達の倒れている姿や、弱りきり無理矢理連れて行かれようとする姿が目に入る。
「…っ!」
不意に腕を捕まれ、引かれる。
「お前もこっちだ──」
下卑(げひ)た目線が身体をなぞる不快感。剣を抜き、抵抗──する力も出ない。
「ウィルを離せっ!」
怒りに任せた拳が人間を吹き飛ばし、ルカがオレを抱き留める。
「ウィル、ああ、ウィル大丈夫!?」
「あぁ…だい、じょうぶ」
「薬だ、それも──捕まえた獣人族で実験して作った特別性みたいなんだ」
ああ、なるほど。と納得する。
根本的に毒や薬に対する耐性が強く、余程の薬物でなければ効かないが、それを用意し混入させるのも人間にとっては危険な上、嗅覚のいい獣人族には簡単に察知されてしまう。ただローリターンハイリスクなだけなのだ。
「ウィル、大丈夫?何か症状は…」
「…っ、今は…まず仲間が先…」
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