魔法族の強欲 (Page 5)
「…あの、ちょっとお茶でもしませんか?」
*****
グリーンの目の男は僕の話を一通り聞いて残酷過ぎる現状に言葉が出ないようだった。
「お腹の子は兄との子なんです」
たまたま近くにあった喫茶店で他にも客は居るのにペラペラとこんな話をよく話せたもんだ、と話しきった後に思ってしまった。
「でももう産まれてしまいますよね?」
「予定日は2週間後。それにまた妊娠させられるでしょうね」
「そんな…」
なんとも言えない空気が流れる。僕もなんと言っていいのかわからない。
「…僕と暮らしませんか?」
「はい?」
「だから…僕のところに来ませんか?」
*****
予定日を2日過ぎたころ、屋敷内に産まれたての赤子の産声が響き渡る。
「よく頑張ったわね」
どうやら僕は難産だったようで何度も意識が遠退いたし、このまま永遠に陣痛が続くのかとも思うほどのものだった。
産婆が産まれたての赤子の顔を見せる。
「可愛いわね。おめでとう」
はっ、とする。
…なんて可愛いのだろう。
望まない、あんなに嫌だと思っていたのに。
思わず抱き締めたくなり、腕を伸ばすと「はっ、あんなに嫌がってたのに母性ってすごいな」というギルバートさんの嫌味が飛んできたが全く気にならなかった。
*****
あの日、彼は言った。
「そんなところからは逃げるべきです」
「でも…子供は…」
「僕じゃダメですか? その…父親は。父親には僕がなります。だから逃げましょう」
僕は静かに頷いた。
本気でこの人なら助けてくれる、そう思ったからだ。
「僕は時間を止める魔法が強いんです。20分は止められる。その隙に逃げましょう」
「…わかった。無事に産まれて…準備ができたらバラの花を咲かせるから…それを合図に…迎えに来てくれるか?」
最後の方は涙で言葉にならなかったが、彼は頷き、「わかりました。じゃバラのつぼみを買いにいきましょうか」と笑った。
でも肝心なことを聞くのを忘れていた。
「あなたの…あなたの名前はなんというのですか」
「…ミシェルです。改めてよろしくお願いしますね」
Fin.
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