満月の夜、秘密のお散歩 (Page 2)
「ねぇねぇ、東海林君って、筑波君のお母さんみたいだよね」
椎名がおかしそうに笑いって二人のやり取りに茶々を入れると、お互い顔を見合わせてから同時に彼女へ向き直り。
「「ねーし」」
顔を顰めて言った。
その後四人でゼミで出された課題の進捗や、各々の取っている講義についてなど何気ない会話をしていると、不意に美澄が思い出したと手を叩き。
「ねぇねぇ、今度の金曜、うちらサークルの子達と飲み会やるんだけど、二人も来ない?」
それに椎名も頷き、やや声のトーンが上がり気味で言葉を続け。
「いいじゃん、東海林君も筑波君も、あんま飲み会とか行かないし、みんな結構知りたがってるんだよ?おいでよ」
女性陣からの熱いお誘いに気まずそうに視線を泳がせる筑波が歯切れ悪く言葉を紡ぐ。
「あー…ごめん、折角なんだけど、ちょーっと金曜は用事が…」
その言葉に少しがっかりした様子の女子二人は東海林へ目を向けると、彼も同じように申し訳なさそうに口を開く。
「俺も、バイトが入ってる。悪いな」
「ざんねーん、また今度誘うね」
肩を落としてすっかり意気消沈しながらも、笑みを浮かべて椎名が言う。
「ん、ありがと。行ける時は参加するから」
人好きのする笑顔で筑波が返す。
食事を終え、それぞれ次の講義のため移動の準備を始め、席を立ち、筑波が椎名と美澄に手を振りつつ東海林と共に彼女達と反対方向へ歩き出す。
その背を見送りながら、女性二人は顔を見合わせる。
「あの二人、彼女とかいるのかな?」
美澄の言葉に椎名はただ首を傾げて肩を竦めた。
*****
そして、金曜日の夜。
「ただいま」
「おかえり~、遅かったじゃん、誠ぉ」
リビングのソファで胡座をかいて座る筑波が少し不機嫌そうに言う。
「ああ、交代の奴が遅刻してきてな。…悪かったって」
ジト目で見てくる相手に思わず一歩退いて謝罪する。
学校とは違い、名前で呼び合い、東海林に甘えるような態度を取る筑波。
「ふーん?まぁ、いいや。準備はしておいたぜ?」
鼻唄交じりにソファの脇に置いた箱を指差す。
東海林はしゃがみこんで箱の中身を漁りながらソファに座る相手に視線を移し。
「…やるのか?」
問いかけられると満面の笑みを浮かべて頷く。
「満月の夜、約束だろ?」
流し目で首を傾げる仕草に東海林は弱かった。
「…じゃあ、行こうか。浩司」
筑波の後頭部へ腕を回して引き寄せ、囁くと口付けを贈った。
*****
まるで犬の散歩のような格好で神社の石段を上がり、境内の裏まで歩く。
そこまでたどり着くと、待ちきれないというように筑波は東海林に向かって向き直る。
そして犬のお座りの体勢を取ると、期待に満ちた目を向ける。
「わかってるって…」
苦笑しながら呟いて、長めの前髪をかき上げると、リードの先を手近な木に引っ掛け、東海林はデニムの前を寛がせる。
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