わんことご主人の甘い生活 (Page 3)

ご主人の驚いてこわばった顔が目に映る。

けど、止められなかった。

床に押し付けたまま、強引に唇を重ねる。

「んっ…!」

ご主人は抵抗しようとするけど、俺の方が腕力は強い。

「ら、ラック…どう、した…」

微かに声が震えてる。

でも、どうしても、ご主人が欲しかった。

そのまま体を密着させて唇を貪る。

犬の姿のとき、何度もご主人の顔を舐めたけど、それとは違う気持ちよさ。

「んっ…ん、ぁ…ラック…落ち着け」

ご主人の弱々しい声がする。

それを無視して、申し訳ない気持ちと一緒に、どうしようもない、満足感みたいなものを感じる。熱は一気に冷めてただただ怖くなって、耳がぺたんと倒れ、体が震える。

「お前…ラック、か?」

そういいながら俺の首にはまったままの首輪に触れた。

「…ご、しゅじん…」

ヒトの言葉を初めて口にした。

ご主人はまた驚いた顔をしている。

俺はきっと、とても情けない顔をしているだろう。

ご主人はいつもの優しい顔になって、優しく頬を撫でてくれる。

「やっぱり、ラックなんだな?」

ただ俺は頷くしかできなかった。

「ラック、でもなんでこんな姿に?」

不思議そうなご主人に俺はなんとか言葉を探して視線を泳がせる。

「えっと…おれ、は、キメラ、っていうやつで」

ご主人はたどたどしい言葉をただ聞いてくれる。

「けんきゅう、しせつで、うま、れて…」

自分の生い立ちをゆっくりと語る。

「ほんとう、はこどものころ、か、ら…ヒトの、すがたになれ、る、はずで…」

カタコトで聞き取りにくいだろうけど懸命に言葉を紡いだ。

ご主人はただゆっくりでいいというように頷いてくれる。

「だ、けど…おれ、は、できそこない、で。へんしん、できないから…いらない、って」

そこまで言うと捨てられた日のことを思い出して涙が浮かんできた。

そんな俺を、ご主人は優しく、いつもしてくれるように抱き締めてくれた。

「そうか、辛かったな。大丈夫、ここはお前の家だぞ」

あやすように優しい声で、抱き締めたまま頭を撫でてくれる。

「お前がキメラでもなんでも、俺の大事な家族だ」

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