疑似学生と偽先輩
会社員、水瀬浩太(みなせこうた)とフリーター、山岸忍(やまぎししのぶ)は当人たちは気付かないバカップル。互いが愛しくて仕方がないゆえにわがままを言ってしまったり聞いてしまったり。そんな彼の今回のおねだりは?
「あの…これ、マジでハズイんですけど」
そんな言葉をこぼして恨めしそうな視線に対して優しく微笑みを浮かべる。
「うん、やっぱり可愛いよ。忍くん」
「可愛くねーし!脱ぐ!今すぐ脱ぐ!」
叫ぶように言って学ランのボタンを外そうとすると、その手をやんわりと掴まれる。
「それは、僕の仕事だよ」
そうして片手でネクタイを緩める彼はどこまでも優しく微笑んでいた。
*****
ことの発端はいわゆるおうちデート。
フリーター、山岸忍の家に恋人である会社員、水瀬浩太が遊びに来ていた日。
「忍くんってさ、意外と部屋片付いてるっていうか、ものが少ないよね」
「意外ってなにー?いらねぇもんはいらねぇもん」
気だるげに窓辺で下着だけ身にまとった姿で外を眺めて煙草を吸う忍が振り返る。
「ごめん、バイト先で見かけるときもほら、足で椅子動かしたりしてるじゃない」
「あー、店長によく怒られるあれね。雑いってよく言われる」
煙草を灰皿に押し付け、火を消すと窓を閉めて振り返り、目にかかる金髪をかき上げる。
「で、その忍くんも数年前までこんなに可愛かったんだ」
見ればいつの間にか衣服を整えた水瀬が部屋の片隅でほこりをかぶっていた高校の卒業アルバムを開いている。
「って!なに勝手に見てんの!?」
「あ、目についたからつい…ふふ、髪の毛も黒かったんだね」
まったく悪いと思っている様子はない。
「制服かぁ…いいなぁ…見たかったな、高校時代の忍くん」
「いや、今見てんじゃん」
呆れたように言うとにこりと温和な笑みが向けられる。
「生で」
ぽかんと口を開ける忍にお構いなしに続ける。
「制服は置いてないの?」
「置いてないに決まってるっしょ」
呆れたように言うと今度はしゅんと眉を下げてしまう。
その日はなんだかんだ二人で夕飯を作って食べて、どことなくうわの空なまま水瀬は帰った。
そして、数日後。
忍が務めるバルの更衣室。
「もしもし、水瀬さん?」
「ああ、忍くん。バイト今日早番だったよね、そろそろ終わるころかなって。うち来ない?」
恋人にそういわれて行かないわけがない。
二つ返事で電話を切り、足取り軽く水瀬宅に向かう。
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