廃墟探検~強姦魔地縛霊ハ愛ニ執着スル~ (Page 5)
『ククッ――』
再び顔を上げた龍は壁に掛けていたカレンダーに×印を書き足した。これは先ほど見た竜の記憶の続きのようで…源人の浮気発覚から1週間、彼らは食事を共にしていないらしい。源人は性懲りもなく、またハッテン場で同じ相手と身体を重ねているのだろう。記憶を眺めている俺は、カレンダー内で映えて見えるハートマークに目が留まった。
最初は竜と源人、2人の記念日なのだろうと思ったのだが――恋人関係が破綻しているのであれば、竜の方でさっさとマークを消していてもおかしくはない。だが彼は不気味にそれを指でなぞっている。
『…源人。俺たち、あの世へ行ってもずっと一緒にいようって約束したよな?大丈夫、俺もすぐ後を追うから…』
そう呟いた竜はカレンダーから手を離し、食器棚の隙間から茶色の小瓶を取り出して、天を仰いだ。中に入っているのは薬品のようだ。
(まさか…竜の奴――浮気された腹いせに、源人と無理心中する気なのか!?)
いや、竜が企(たくら)んだ無理心中であるならば、幽霊となった竜が語る“源人に毒を盛られて死んだ”という話と辻褄が合わない。そう思った矢先、また目の前にノイズが走り、記憶映像が乱れだす。
ダイニングテーブルに広がったコーヒーの水溜まりの上で、泡を噴きながら突っ伏し、ピクリとも動かない金髪の男の姿――倒れているのは、“竜”であった。
『誰がお前と心中なんか…!竜は俺に口出しばっかりして――どうせち●このことしか考えていないビッチだとでも思ってたんだろ?お前は俺がほしい言葉を言ってくんねぇし、ハッテン場に行く楽しみも奪っちまう。本当に気持ちのいいセックスが何なのか…俺、あそこで初めて知ったんだッ!!』
大人しかった源人が勝者の雄叫びのように吠えたかと思うと、ガンッとテーブルを蹴り飛ばす。机の上に広がっていた毒入りコーヒーの汁が土砂降りとなってフローリングの床へと降り注いだ。
そのとき――玄関のドアが静かに開いた。
『幼馴染の“元カレ”を死に至らしめるだなんて…流石私が見初(みそ)めた男だよ、源人。さぁ、こっちへおいで』
ジャリジャリと陶器の欠片を踏みつけ姿を現したのは――中年の男である。男は幼馴染が死んだというのに涙ひとつ零すことなく、達成感に満ちている源人の肩を抱くと、唇同士を重ね合わせた。
(信じらんねぇ…源人の方が竜を殺したっていうのか!?)
竜の恋人である源人を巻き込んでの無理心中は失敗に終わったのだろう。そればかりか、彼は戻ってくると信じていた源人の手によって返り討ちに遭い、命を落としてしまったのだ。
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