道化師のギャロップ~上がって落ちて突き上げて~ (Page 3)

そのまま、無為に日常を過ごしていくうちに、先輩のことは少しずつ記憶の中で霞んでいった。

それでも、テニスだけは好きになってしまって、そこまで上手くなったわけではないが今でも続けている。

そうして、また季節は巡って…というか学生時分に人生の分岐になる試験って多すぎないか?

ついこの間、高校受験が終わったと思ったら、もう大学受験だ。

もちろん高望みはできない。

それなりにやりたい事を探して、それが叶う尚且つ俺の学力で行ける学校を選んで進学した。

大学生活が始まる頃には俺はすっかり先輩のことなど忘れていた。

サークルはもちろんテニスサークル。

でも、部活に比べてサークルっていうのはなんというか、軽くて、テニスよりコンパやカラオケやら遊びの方が多いくらいだ。

正直、あまり楽しくない。

そんなある日、珍しくテニスサークルらしく他校との試合を行うと聞いて胸が躍った。

久々に全力でテニスができる。

無気力がちだった俺の気持ちがいつ以来かの高揚感に包まれていた。

当日はこちらの学校まで先方が来てくれるとのことで、コートを整えて待っていると複数人の話し声がして、相手方が到着したのだと知り、みなで出迎える。

挨拶を済ませた後、迎えた先方の学生の群れから一人、青年がこちらへ駆けてきた。

「波輝…?」

聞き覚えのある声。

声の主を見ると、フラッシュバックするように様々な思いがよみがえる。

「…弥耶、先輩…」

周りが微かにざわついた。ただならぬ空気を漂わせてしまったのだろう。

それに気づいた彼が慌てて周囲を見渡していう。

「あ、彼、中学の後輩なんだ。あまりにも面影が残ってて驚いてさ」

そういって笑う顔は昔のまま。柔らかかくて温かい。

どうして今まで忘れていたのかと思うくらい、眩しくて。

その日の試合はもちろん楽しんだけれど、それ以上に先輩から目が離せなかった。

試合後は懇親会と銘打った飲み会。

大学生になり、ハタチにもなり、好きとはならないものの少し酒の味も覚えていた俺は、隅の方でちびちびと飲みながら適当に周囲の人と会話をし、先輩を視線で追ってしまっていた。

そうすると、何度か互いの目が合った。

それだけでむず痒い嬉しさが込み上げて、我ながらガキかと思ってしまう。

周囲から先輩の話を聞いてもいないのに聞かされた。今は教育実習の合間でサークルに顔を出しているらしい。

先生かぁ、先輩らしいと正直に思う。

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