お持ち帰りしませんか?~立ち飲みゲイバーで好みの相手にモーションかけたらお持ち帰りされたらまさかの職場の上司でした!?~ (Page 2)
「…お、なかなかに賑わってるなぁ~」
荷物を駅のコインロッカーに預けて、財布とスマホだけを手にしてバーへと向かう。
通い始めた頃はこじんまりとした雰囲気のあるバーだったが、改築を繰り返しているため、今は倍くらいの広さになった。
数年前にホテルを併設してその料金込みの利用料の設定にしてくれたのも、これからホテルを探したり、あったとしても同性同士はお断りされることが多いこの時代を生きるボクたちゲイにとっては神様みたいな存在だ。
「こんばんは、マスター」
「いらっしゃい、神尾ちゃん」
「ジンライムください」
「待っててね」
このバーは前金制だ。ホテル代、ドリンク代、滞在時間は無制限。なのに1万円ポッキリ。
ドリンクは2杯まではこの金額で飲めて、それ以上は都度お金を渡していく仕組みだ。
こんな格安でいい思いができる場所は他にないだろうと思う。
だから金曜日の夜は特に賑わっているのだ。
「はい、お待たせ。神尾ちゃん、いつもみたいに2杯目は口説く人に渡すようにする?」
「うーん…今日は飲みたい気分だから、普通に払います」
「オッケー。決まったら教えてね」
そう言って別のお客に呼ばれてマスターが離れた時。隣に立っていた長身の男がふとボクの顔を覗き込んできた。
「…キミ、…名前は?」
「え?ボクの?」
「そうだ。キミの名前が知りたい」
「ボクの名前はコウだよ。お兄さんは?」
「私はミサキ、という」
「ミサキさん?」
「ああ、そうだ」
「ミサキさんはここは初めて?」
「いや、何度か…足を運んでいるが」
「ふーん、そうなんだ」
前髪が長くて、あんまり表情を確認することはできないけど、声がすごく、すごく甘い。テノールとバリトンの中間くらいの低さで、話し方が柔らかいからか、優しげな印象を持った。
視線を相手の顔から外して、グラスを弄ぶ指先を見た。長くて細いけれど、男性特有の骨張った指。
身長は自分より15cmほど高いだろうか。
程よく筋力がついているだろう胸板はサマーニットの上からでも想像がつく。
(この人に抱かれたら…どんな風になるんだろう)
想像をしてしまい、ごくり、と生唾を反射的に飲み込んでしまう。
不自然に鳴る喉に、ミサキさんは怪訝そうにボクを見た。
「コウくん、と言ったね」
甘い声がボクの鼓膜をくすぐった。
「ん、なぁに?ミサキさん」
動揺を悟られないようにグラスのお酒を一気に呷ると、そのままミサキさんに寄りかかり、顔を隠すように下を向く。
「コウくん、…私と隣のホテルに行ってくれないか?」
「…!」
甘い甘い声が耳奥へと吹き込まれる度に、ボクは下腹部を濡らしてしまうのだった。
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