40歳、今更ですが
金子と山田は幼少期からの幼馴染だった。綺麗でも格好よくもない中年カップルの楽しみは週末の居酒屋とラブホ巡り。互いの兄妹の結婚を機に付き合い始めた二人だったが、最近の山田には思うことがあって…?40歳目前のラブストーリー!
くたびれたスーツを身に纏った、白髪交じりのおっさんが2人。肩を並べて扉が開く度に人が降り、建物の明かりも減っていく電車に揺られる。
駅前にコンビニがあったら当たりだとお互いに笑いながら、見知らぬ土地を歩いてその日の宿を探す。
まだ俺たちが若かったころ、ラブホテルは同性禁止の場所が多く男同士で泊まれる場所を探すのに苦労した。
最近は大っぴらにはしないものの、案外入れる場所が増えてきているから有り難い。
駅から少し離れた住宅街を越え、地元の運転手が抜け道に使いそうな道路沿いを歩いていると古びたホテルが一軒。
さっとパネルから部屋を選んでフロントで鍵を受け取り、カビや埃の匂いがするエレベーターに乗りこむ。
薄暗い廊下の先でチカチカと光る部屋番号。あまりの古さに少し笑いそうになりながら、俺たちは今夜の戦場に足を踏み入れた。
「こらこら、シャワーくらい浴びさせろ」
部屋のドアを開けると自動で明かりがつき、便所サンダルみたいなスリッパが俺たちを出迎える。
革靴を脱いで室内に進もうとする俺の腰に回された腕と、首筋にかかる生温かいおっさんの吐息。
これが金子じゃなけりゃぶん殴りたくなるほど気持ちが悪いんだろうが、ガキのころから知っているとなればまあ可愛いもんだと思えた。
いい歳こいてじゃれついてくる金子を引きずりながら部屋の奥に足を進め、鞄をソファに投げる。
ネクタイを解きながらバスルームに移動しては湯を張り、背広を脱ぐより先に奪われてワイシャツの袖ボタンを外した。
どうも金子は部屋の豪華さも設備も何も拘りがないくせに、ホテルを利用するということに興奮するらしい。
ネクタイを引っ張って歯を磨くように促し、湯の注がれる音を聞きながら仲良く使い捨ての歯ブラシをくわえる。
お互いに年を取ってきている。白髪に加齢臭、そろそろ買い替えにゃならない膝の出たスラックス。
イケおじとは縁遠いおっさんだが、一応恋心らしいものと性欲は健在だ。
「で、今夜はどっちよ」
歯を磨いてキスをして、互いの股間を擦りつけ合いながら夜の確認をすれば金子は少し悩んだ後、昔から変わらない無邪気な笑顔で両方と言い放つ。
二つ返事で即答できない程度には一緒に歳を重ねてきたが、今ここで答えなくても結果は同じだ。
さっさと風呂に入って汗を流し、気休め程度に洗面台に置かれたコロンをつけてみた。
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