あなたの薬指が許せない

・作

俺たち、どんどん友達のフリが上手くなっていくね。俺・樹はバイト先の社員に恋をした。その社員であり大切な恋人・裕我には妻がいる。こんな関係間違ってる、わかってるけど止められない。いつも薬指に光るリングを見る度に罪悪感と嫉妬がうずまいてく。

「もしもし〜」

「珍しいじゃん。どしたの?」

「少し会えないかなって」

「あっ、いいよ。いつものとこに 待ち合わせでいい?」

平日に会えるなんてこんな珍しいことはない。俺は柄にも無く楽しみで仕方がなかった。
待ち合わせ場所に着けば、もう裕我はビールを飲んでいた。

「あー樹くん、何飲むー?」

少し早足で歩いたせいでなのか、この人の顔を見たからか心拍数上がる。

「じゃあ、俺もビール飲もうかな」

「弱い癖に。嘘つきめ」

そんな嘘つきにはこうだ!なんて頬を引っ張るからしかめっ面をしながら店員さんにココアで、と頼んだ。

店員さんが去った後、個室のここは2人きりの空間。
さらりと後ろに回った裕我は後ろから俺を抱きしめながら、酔った樹をぶち犯すとか最高だな。
なんて囁くから腕を叩いた。

するりと離れるとなんの顔色も変えずビールを飲み干した裕我。

「言いたい事あるんだ。樹もわかってるだろ?最後まで聞いて?」

「なっ…」

タイミング悪く店員さんが来てしまった。
知ってるんだ。俺だって馬鹿じゃねぇーし。
その後のココアの味なんて全然覚えてなかった。

「何も言わないで…」

ゆっくり唇が重なる。苦い。俺がビールそんなに好きじゃないのわかってるから、顔面にキスを振らせてくる。

「その八重歯見せて笑うの、誰にも見せないで…」

チュッ、とリップ音を立てて離れてく温度。

ずるいよ。ずりぃわ裕我。
俺そんないい子になれないよ。

裕我の携帯が鳴った。

「出なくていいの?」

思わず言ってしまった。

「そうだね。…もしもし?」

その後すぐ帰ってしまった。言わなきゃよかったなんて、バカらし。
その日はなんだか寂しかった。

*****

いつも通り大学に通う。メッセージを受信しました?

次の土曜日会わない?というメッセージ。

裕我からだ。
もちろんおっけーに決まってんじゃん。
授業中とか関係なしに返事をした。

「いつきーごめん待った?」

「全然だよ、あっ、お久しぶりです」

となりの女の人に挨拶をする。

『お久しぶりだね樹くん、いつも裕我がお世話になっててごめんね?飲んだらうざいでしょー?』

「いやいや、そんなことないですよ」

笑ってるけど腹の中ではお前に裕我のなにがわかんのって怒りしかなかった。
あれよあれよという間に終電の時間。

「俺、そろそろ終電なんで」

「あっ、じゃあ出ようか!」

どんどん友達のフリが上手くなってく。
もうそんな関係じゃなくなってしまってんのに。

「すみません駅まで来てもらって」

『いいのよ!じゃあ、またね』

「またな裕我くん!」

背を向けて歩いてく2人。そうだよな。
こんな俺なんかよりあの2人の方がお似合いだ。
かかとを返しかけた瞬間裕我が振り向きざま俺にまたねと笑顔で口パクした。

*****

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