1億回でもキスしていいよ (Page 4)
偶然なんかじゃない。間違いなく、キスを避けた。顔を反対に背けて、俺の肩を、押しやって。
それは、明確な、否定の態度だった。
一瞬、理解できなくて──でも、すぐに理解してしまって。
気がつくと俺の両目からは、ポロポロ…と涙がこぼれ落ちていた。
「は、ハルくんっ?!」
ユキトが、慌てて俺の顔を覗き込んだ。
「ご、ごめんっ、ハルくん…その、違くてっ」
「い、いや。違うんだ。今のは、俺が悪…っ」
ぼろぼろ溢れる涙を腕で拭う。
止まれ、止まれ。こんなのダサすぎる。そう強く念じるのに、涙は止まってくれない。
俺はせめて明るい声で、無理矢理に笑い声を絞り出した。
「そうだよな!ごめん。本当は気づいてたんだ。ユキトはずっと、キスするの嫌がってたのにな。俺がしたいからって、こ、こんなの無理やりと一緒だよな。気持ち悪いよなっ。もうしないから、ごめん、許して…んう…っ?!」
突然。俺の言葉は、抱きすくめられた腕によって塞がれた。
ぎゅうう…っと俺をキツく抱きしめるユキトが、震え声で言う。
「違うんだ…ごめん。ハルくんは悪くない。オレのせいなんだ」
「ユキト…?」
「オレ、自分で言うのも変だけど、キスするのが好きな方でさ。エッチのときにキスすると、つい夢中になっちゃって、相手に負担かけちゃうんだ。あんまり昔の恋人について言いたくないけど、相手を嫌な気持ちにさせちゃったこともあって…。だから、気をつけるようにしてたんだ」
「…それって、例えば、しつこいって言われたり?」
「…うーん。そうだね。そういうこと、言われたりもした。エッチのときにキスしないでって言われたこともあるし。ダサいでしょ?」
自嘲気味な言葉とは裏腹に、ユキトは苦しそうに眉を寄せる。
「幻滅したよね。ごめん。ハルくんに、嫌な思いさせたくなくって。オレ、変わりたくって…だから…」
すごくしょんぼりしたユキトを見て、俺はたまらない気持ちになった。
両腕を伸ばしてユキトの頭を胸に抱きしめる。
「は、ハルくんっ?」
「…あのさ。俺も…同じなんだ。好きな人とキスするのって、すっごく幸せな気持ちになるよな。気持ちよくって、嬉しくて、もっともっとって求めちゃうよな。…オレ、も。そうやって、相手に負担かけちまって…後悔したことがあって。でも、ユキトが、もし…俺と同じ気持ちでいてくれるなら、…俺…もっとユキトと、キスがしたい…」
「ハルくん…」
ユキトが、両手で俺の頬を包み込む。
じっと見つめられると恥ずかしい。
でも、真正面から見つめ返す。
「キス、してほしい…。ユキトの好きなようにして。…ユキトが、好きだから…」
「…いいの?」
「うん…」
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