月明りと媚薬の罪と罰
世界には様々な種族が溢れている。中でも獣人族は脅威であったが、彼らは平和を望み温厚であった。幼馴染みであり親友でライバル同士、そんなルカとウィルは日々を共に生きていた。人間から停戦協定を持ち掛けられ、怪しげな飲食物を振る舞われるも薬物耐性があるからと口にし──。
―――剣戟(けんげき)が、響いていた。
それを遠巻きに相棒と肩を並べ、見やる。
「なぁルカ。なんて、空しいんだろうな」とぽつりと呟いた。
「オレはこんなの、望んじゃいなかったんだぜ。ああ、本当だとも。ただお前とずっと、今まで通り―――」
ざあ、と強い風が吹き砂が舞い上がった。
*****
「ウィ~ル~~!」
そう少し高めの声でわざわざ所在を明かしてくれる、親友のルカが飛び掛かってくる。
ガキンっ、と剣が弾ける音が響く。
「おぉー、さすがウィルだね」
「舐めてるのか?」
息をつくように抜いた剣で、彼の『爪』を弾いたのだ。艶(つや)やかな毛並みの大きな耳と、尻尾、そして鋭い牙と爪。そう、俺たちは獣人族であり、剣士である。
「黙って襲い掛かってもウィルならちゃんと受け止めてくれるってわかってるよ」
「お前はわかりやすい攻撃ばっかだからな」
「ふふん、でも勝敗は五分五分だもんね!」
「うるせー」
人間たちからは迫害され、弱きものは毛皮を剥がれ売られたり、性処理道具として扱われることもしばしばある。
俺たち獣人族は自衛のためにしか力を振るわない。それは、人間と共存したいという気持ちの表れでもあったし、力あるものとして制御せねば摂理の輪を乱してしまうからだ。
力をつけねば、簡単に蹂躙(じゅうりん)されてしまう。自警団を作り、弱き者を守り、不条理な世界を生き延びなければ。
「ウィルまた難しい顔してるね?」
「なんでもねーよ」
幼い頃から一緒のルカとは親友であり、剣を競うライバルであり、そして──恋人だ。
──ガキン、と一際大きな金属音と共に剣が弾き飛ばされた。
「へへ、今日はボクの勝ちだね」
「そうとは限らないぞ」
純粋な体のぶつかり合い。爪で身体能力の高さだけでお互いを測る。
「オレが、勝つ」
「じゃーウィルが勝ったら何でも言う事1個聞くよ、ボクが勝ったら…いっぱい素直になってもらおうかな?ふふ」
飛んでくる蹴りを受け止め、攻撃へと転じる。
「だ、れが!」
幼げな瞳を向けながらくすくすと笑うルカの足元を払う──ものの、いとも簡単に避けられる…が、それも想定範囲内。身をひねり蹴り上げる。
「あっは!イイね!じゃあ、ボクも本気出すかな」
にこりと笑い、攻撃へと転じるルカのしなやかな身体の動きに目を奪われた。
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