道化師のギャロップ~上がって落ちて突き上げて~
中学に入学してすぐ、斎藤波輝(さいとうなみき)はテニス部の副部長、中村弥耶(なかむらみや)に恋をした。悩んだり考えたりが苦手な波輝はついに抑えきれずに思いを告げ、両思いであったことを知る。しかし幸せは長く続かずに…。
中学一年、俺は初恋を知った。
いや、好きな子っていえば別に小学校、なんなら幼稚園のときもいたけど、今思えばそれは恋なんて言えるほどの感情じゃなくて。
出会ったのは春。入部した男子テニス部の副部長、中村弥耶さん。
初めてテニスをする部員が多く、弥耶先輩は指導も熱心にしてくれて、フォームを教えるのに手を取って一緒に動いてくれたり、基礎練も細かく何のためにするのか、わかりやすく教えてくれた。
いつもあったかい笑顔で、誰にも優しくて。でも時に厳しくて。柔和な性格に加えて少し長い、ボブに近い色素の薄い髪と華奢な体、名前のせいもあって「お母さん」なんてみんなから呼ばれてたりもしてた。
事実、お母さんみたいだった。部長とのやり取りはまさに夫婦。
そんな部長が羨ましいと、いつしか思ってた。なんで、弥耶さんの隣で笑ってんのは、いつも俺じゃなくて部長なんだろう、って。
「波輝、ぼーっとしてどうした?」
休憩でベンチに腰掛け宙を見つめる俺に身をかがめて声をかけてくれた涼やかな声。逆光で見づらいけど、いつもの温かい笑顔。
ああ、やっぱ、好きだ。
*****
熱に浮かされていたのだろう。
暑い真夏の盛り、夏休みの練習中に熱中症で倒れた俺を保健室に運んで介抱してくれたとき、ついに俺は告げてしまった。
己の思いを。
先輩は驚いた顔をしてから、花がほころぶような笑みを浮かべて言った。
「嬉しいな。俺もその…波輝が好きだったんだ」
飛び上がるくらい驚いた。そして、夢かと思って頬をつねって、熱とつねった痛みで現実だと知り目玉が落ちるんじゃないかというくらい見開いた。
「そんなに驚く?波輝から告白したんだろ?」
口元に手をもっていき、クスクスと笑う姿が愛おしい。
ぼんやりとそんなことを考えていると、不意に視界が暗くなり、唇に柔らかな感触を受けた。
目のピントが合うと、間近に見えた綺麗な顔、ほんのりと赤くなっている。そうか、キスされたのか。
「あ、ごめん…嬉しくてつい…」
少し困ったような顔で謝る。初めて見る顔。こんな顔をすると少しいつもより幼く見えた。
「なんか、順番おかしくなっちゃったけど、これから改めてよろしく」
照れくさそうに笑って弥耶さんに告げられ、ようやく諸々実感がわいて、俺は爆発しそうなほど真っ赤になった。多分、体温がまた倒れたときくらいに上がっただろう。
それから、一緒に帰ったり、勉強教えてもらったり、休日はデートっぽいことしたり、恋人らしく過ごしていた。
でも、キス以上のことはなかった。
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