懐かない猫を手なずけてみた
ぐったり疲れて帰宅途中、猫カフェの看板目に入ったが、一般的なものではなくエッチなお店だった。適当に話を聞いてもらって帰ろうとしたが、そこに来たのは生意気な後輩の皐月透(さつき とおる)だった。
「疲れた……」
何日会社に泊まって残業したかわからない帰り道。フラフラとおぼつかない足取りで帰路につこうとしていたはずが、気がつけば見知らぬ場所にいた。
「猫カフェ……?行こう……」
辺りを見渡して目に入った猫カフェの看板。疲れた脳にはきっと癒しがよく効くはずだ。
店の扉を開けると、猫カフェにしては異質な雰囲気のほの暗い室内。受付を済ませて前金を払い、奥の部屋に通される。通された部屋のソファには男性が何人か座っていて、空いてる場所に座る。
猫たちに会えるまでこんな並んでるなんて、よっぽど有名なところだったのかもしれない。そう浮き足立ったのもつかの間、視界に入ったのはガラスの向こうにいる猫、のコスプレをした顔立ちのいい男の子たちだった。
「はぁっ!?」
衝撃の光景に思わず叫んでしまい、周りから鋭い視線が刺さって頭を下げる。
いや、おかしいだろ!猫カフェって書いてあって……猫、なのか……?いやいや!それか、もしかして猫カフェと見間違えてエッチな店に入っちゃったか……!?そうだ、きっとそうに違いない!返金対応、とかは無理そうだろうし適当に時間を潰して帰ろう……猫カフェには今度行こう……
「お客様、どの子にいたしますか?」
「えっ?あ、えっと……1番人気の子って」
「すでに別の方が指名されてますね」
「はあ……誰でもいいんだけど……そうだ、聞き上手な子っていますか?」
「はあ……?彼らに聞いてみますね。1番聞き上手な子でいいんですね?」
「はい、話を聞いてもらいたいだけなので」
素直にそう伝えるとスタッフの男性は怪訝(けげん)そうな顔をして、こちら一瞥(いちべつ)してから部屋を出ていった。
はあ、そりゃそうだ。エッチな店で話を聞いてもらいたいなんてそういるわけじゃないだろうし……そんなことを考えているとまた別の部屋に案内されて、今度はさっきとは違う狭い個室だった。
「失礼しまーす!ご指名いただきました、透で……」
「えっ」
「は、はぁ!?今浪(いまなみ)さん……!?」
「皐月……!?だよな……?」
「なんでここにいんだよ……何しに来たんすか」
小声で言ってることも狭いこの場所では丸聞こえだ。部屋に入ってきたときの笑顔が消えて口が悪くなったこの後輩の、意外な一面を見てしまったわけだが……先輩としてどう対処すべきか頭をフル回転させる。
素直に帰って見なかったことにすべきか。それとも、生意気な後輩の弱味を握ったことをチラつかせて言うことを聞かせるか。普段なら選ばない選択肢も、疲れてるからか気持ちが大きくなって選んでしまった。
「副業禁止だよな。会社で言いふらされたくなかったら言うこと聞けよ」
「チッ……!俺より仕事できないくせに……!」
「そんなこと言っていいのか?」
「くっ……なに、すればいいん、すか」
皐月が普段、俺をバカにしたような蔑む目を向けてきていることを俺は知っている。その気晴らしを少しでもできるチャンスは今しかない!優秀な後輩に仕事でやり返せるわけもない、と断言できるのは我ながら悲しいことだが今はどうでもいい。
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