マウント恋愛 (Page 2)
「ゆり、俺もう出るから、飯そこに置いてるし、食べ終わったら米、炊いてて」
午後1時すぎ、リビングで扇風機だけを回してテレビを見ていた俺はまだ寝室で眠る百合人に声をかけた。
「ゆり?」
何も答えがなさすぎて、いや、それはいつものことだったけど、どうしても心配になって被っていたタオルケットをめくった。
「……おまえさ、痕つけるなって言ったよな」
額に腕を乗せて呟く百合人の声が低い。
刺々しくてビリビリした声は百合人が怒っている証拠。
「あー、あはっ、アハハッ!な、なんでかなぁっ?」
「……」
見つめてくる百合人の視線は昨日の夜、いや、朝方とはまるで別人。
「そんなに見つめられたら、また襲っちゃうぞ!」
獣が襲うようなポーズで笑って返すと百合人はタオルケットを引っ張り、腕だけを出して、『さっさと行け』と手を振った。
*****
俺がバイトしてるコンビニは百合人の通う大学の近くにあるので、そこの学生バイトも多い。
あんまり友だちを作らない百合人の数少ない友だちが同じコンビニのシフトに入っていると、俺が知らない大学での百合人のことが聞けて楽しい。
「宮野からも言ってやってほしいんだけどさ、杉原のやつ、レポートの提出がやたらと早くて、俺らのハードルまで上げてくれてんだよ。もー、どーにかしてほしいんだよなー!杉原って昔からそうだったわけ?」
品出しをしながら嘆く百合人の友だちの高井は、大げさにも天に向かって両手を掲げて頭を抱え込んだ。
「やー、どうだろ、百合人は別に高校の時は俺と普通にサボってたし、勉強もしてなかったんじゃねぇかなー」
「おい、マジかよ、それは!なんで高校でろくに勉強もしてなかったやつがレポートで教授にめちゃくちゃ褒められてんだよっ!」
オーマイガー!と叫ぶように一つ一つの動作が大きい高井は、客が来ると、瞬時に店員の顔になった。
そっかー。
百合人のやつ、大学じゃ、そんな顔があるわけかー。
でも、おかしいな。
百合人が家でパソコンに向かってる時間って滅多に見ない。
いつレポートなんか?
「どうしたー、宮野、何か妙にやらしい顔してんぞー」
「人聞きの悪いこと言ってんなよ。俺の顔は百合人が惚れるくらいイケてんだろ」
「あー、はいはい。そうですね」
軽く受け流す高井だけど、俺と百合人がまさかマジで付き合ってるとかは知らない、はず。
百合人は俺たちが付き合っていることを他人に知られることをとにかく嫌がっていた。
*****
最近のコメント