マウント恋愛 (Page 3)
「ただいまー」
午後9時すぎ。
バイトを終えて老舗のスーパーで買い物をして帰ると、今日は遅くなるかもしれないと言っていた百合人がリビングにいた。
まだ飯は食ってない様子だった。
明日から俺は学校が始まるし、百合人も大学だ。
いつものように冷蔵庫には作り置きのおかずがあるから米が炊けてたら先に食べててよかったのに、その形跡がなかった。
「どうした、ゆり。飯もまだ食わないで。どこか調子悪い?」
エアコンが稼働していて、扇風機も回っている。
リサイクルショップで買った小さめのソファにちょこんと座っていた百合人は、なぁ、とか細い声で言った。
「おまえ、バイト増やすって、マジかよ」
「あ。高良だな?言うなって言ったのに」
「しかもホスト」
「あ、い、いやぁ、それはさぁ、条件に合うのって、そんなに多くなくて」
弄っていたスマホをテーブルの上に放り、立ち上がった百合人は飯はいらないと寝室に行った。
やばい。
完全に怒らせた。
慌てて寝室に駆け込み、ベッドにもぐった百合人に寄り添う。
「そんなすねるなって。まだ契約とかしてねぇし」
「そういうの、事前に相談するって言ったよな」
「言っちゃえばさ、コンビニでバイトしてる時にスカウトみたいなことされて、それ、高井と一緒の時だったからホストになるとかって話になったのかもしれないけど、ゆりが嫌なら断るし」
「俺が困らせてる風に言ってんじゃねぇよ」
実際、そうだろ、なんて、こんな状態の百合人に言えば大げんかになることはわかりきってるから、もちろん言わない。
代わりにベッドにもぐった百合人の体にぎゅうっと抱き着いた。
もぞ、と百合人は動いた。
「なんで話してくれなかった?」
「タイミングの問題だって。今日、帰ったら言うつもりだった」
ひょこっと顔を見せた百合人が疑いの眼差しを俺に向けながら、舌打ちをした。
「飯、食うだろ?今日は、しない日だもんな」
「そんなもん、知るか」
気まぐれに唇を割って舌を入れ込む百合人の腕が俺の首に巻き付いた。
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