コネて叩いて転がす愛
彼女は大学時代にいたきり、それからは特に何もなく平凡に過ごしていた竹崎湊(みなと)、三十五歳。ある日、パン屋の店長、豆本かずきと出会い、親しくなる。終電を逃して、豆本の家に泊まることになったのだが、豆本はある野望を密かに秘めていて……。
いつものように電車に揺られ出社すると、机の上にかわいらしいパッケージに包まれたパンが置いてあった。
誰がくれたんだ?と隣の机を見ると同じものが置いてあって、どうやら部署のみんなに配られているらしかった。
「これ、誰から?」
近くを通りかかった女子社員の藤岡さんに聞いてみた。
毎月といっていいほど髪形がコロコロ変わる彼女は家に猫を8匹も飼っているらしい。
まるで猫のように目を細めて、「駅前にあるパン屋さんなんですけどね、たくさんパンを買うと店長さんと一緒に写真が撮れるんですよー!」と話してくれた。
「へ、へぇ……、それで、みんなに……」
「あ、勘違いしないでくださいね!味もすっごくおいしいから買っただけです!」
「うん……ありがとう」
「竹崎さん、甘党なんですよね?気に入ってもらえると思いますよ」
藤岡さんは確か来月あたりに結婚するという噂だ。
女子社員の中で一番話しやすくて仕事もできる子だったのに、めでたいっていっても退社されるとなると辛いものがあった。
でも、これは俺の中で消化すべき恋心。
だいたい、十歳近くも年の差がある時点で諦めるべきだし、彼女の趣味はサーフィンでアウトドア派だ。
インドア気質のある俺とは趣味が合わないだろうなぁとは思っていた。
世の中、まぁ、だいたいこんなもんだ。
大学時代にできた彼女も数年後には、ほかに好きな人ができたからって別れたし。
「あ~……こうやって俺の人生、終わってくのか~」
竹崎湊、先週で三十五になった男だという自覚はあるものの、出社早々に机に突っ伏して弱音を吐いた。
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