【悲報】飼い犬に童貞処女を奪われました! (Page 7)

彼が家にやってきて間もなくの頃――2年前の話になる。彼が子犬だった時は、今散歩コースにしている河川敷とは反対側の公園へと連れて行き、芝生の土を思い切り駆け回らせていたんだ。公園までの道のりは、道路の拡張工事によって車の往来が激しく、子犬の足取りでは危険だったから、必ず僕が抱えて連れて行く。

その日も、当然のように甘えたい盛りのロンをだっこして公園まで連れて行った僕は、ベンチに腰掛け、虫と戯(たわむ)れている彼の姿を写真に収めようと、スマホを入れていたズボンのポケットに手を伸ばした。けど、肝心のスマホが見当たらない。家を出る際に入れた記憶はあったから、ロンを抱えて歩いている途中で、落としてしまったのかもしれない。公園から家までは、歩いて5分もない短い距離。ロンは土遊びに夢中だし、中断させては可哀想だと、僕は人生において償いきれない選択をしてしまったんだ。
『ロン、いい子だね。ちょっとだけ、ここに繋がせて。本当、すぐに戻ってくるから大人しくしてるんだよ!』

たった一瞬。そう思ってその場を離れた僕は5分後、車に撥(は)ねられて横たわる彼の姿を見て、絶叫することになる。

きっと僕がベンチに結びつけたリードの繋ぎ目が甘かったんだろう。ロンは、自分が置いて行かれたのだと思い込んで、僕を追いかけ――事故に遭ってしまったんだ。幸い、すぐに病院へ駆け込んだから、一命は取り留めたものの、彼には一生消えない傷が残ってしまったんだ。

その傷が、目の前の青年が指差す脇腹に見える。

「お前、自分の所為(せい)だって言ってたけどさ。違うぜ?亮太が『大人しくしてて』っつったのに、俺、道路の真ん中に転がってるデカい棒切れが欲しくて…戻ってきたお前に“俺、こんなのも拾えるんだ!”って見せてやりたくて、力ずくでリードを外して、飛び出しちまったんだよ…」

青年姿のロンは、そういうと僕の頭をくしゃくしゃと撫で回した。

「亮太はずっと心配性だろ?犬の1歳っつったら、あん時のお前と変わらない年頃なんだよ。俺のためにガレージを改造するわ、こっちの図体がデカくなっても一緒にベッドで寝てくれるわ、事故の後なんか、学校休んで飲まず食わずで看病しやがって…そんなの――」

話の途中までは軽妙な語りをしていたのに、ロンは突然僕の頭を撫でる動きを止めた。

「――…惚れねぇ訳がねーだろ…」

途端に真っ赤になり、照れ隠しのためか僕を再度抱きしめて、肩にアゴを乗せてきた。

「亮太が人間の女の話をする度にズリィって思ってたんだ。俺がどんなに亮太を好きでも、亮太が俺に言ってくれる『好き』は女に対する『好き』と同じじゃねぇから…。せめて犬じゃなくて、人間の男だったら、力ずくでお前を俺のモノにできるのにって――」

“最低だよ、俺は”とロンは小さく吐き出した。

「人間は流れ星が見えてから消えるまでの間、3回願いごとを言えばそれが叶うんだろ?犬の願い事まで叶えてくれるほど神様が暇だとは思わねぇけど…この前…ペルセウス座流星群が見えた時、一か八か言ってみたんだよ。『人間にしてくれ』って」
「ロン…」

こんな漫画でしか起こりえない状況の当事者になるなんて、思いもしなかった。飼い犬が人間になって、しかも同性なのに…僕のことが好きだなんて。

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