この恋の価値観、合ってます? (Page 3)
手際よく潤は焼肉を焼いていく。
ここの焼き肉店の肉は、どれも分厚くて、うまいし、個室は完全防音だし、バイトの子の質はいいし、酒もうまい!
「でもさ~、俺たち、まだハタチだぜ~?そんな遊びまくり人生謳歌(おうか)中のピーク絶好調ウェイウェイしてるときにに結婚なんかしていーのかよ」
「いいも悪いも、親が勝手に決めたようなもんだし。だいたい、おまえに関係ない」
「高校卒業してフリーターになって毎月の家賃にヒィヒィ言ってた俺も今じゃエロ業界の優秀株とか言われてんだぜぇ?おい。人生、何が起こるかわからんもんだよ」
「おまえのそれは、ただ性癖が金になっただけだろ」
「なんで、俺、おまえにゲイだって話したんだっけなー、覚えてないけど、おまえ、反応とか態度とか全然変わんねーんだもんなー」
「海外には、おまえみたいなのはたくさんいるよ。珍しくもなんともない」
「そーかい、そーかい」
潤が、ぽいぽい、焼けた肉を皿に放ってくれるから、それをどんどん消化していく俺。
アルコールのおかわりも何杯目か、わからなくなってきたところで制限時間がきた。
「どうする?もう一軒くらい行くか?」
「ん~にゃ、もーいいわ……さすがに、きっつい」
撮影という名の運動をして、たらふく肉と酒を腹に収めたら、もう動けなくなった。
潤に肩を借りて歩くのが精一杯だ。
「あそこでちょっと休んでこう。それがいい……」
「男とラブホに行く気分じゃないけどな」
「お。なんだ、俺の企みがバレたか」
「食べすぎ飲みすぎできついのは本当だろうけどな、動けないっていうのは嘘だろ」
「名探偵かよ」
メガネかけてるし、潤は名探偵になれるな。
「過去にもおまえに酔ったふりしてホテルに連れ込まれそうになったことがあるしな」
「一回くらい男と寝てみようぜって話はどうなった」
「忘れた」
「俺はおまえとなら、たとえ撮影後でケツが痛くても我慢できる」
「なんだ、その決意」
「ハタチになるまで性的行動を我慢してた俺を褒めろ」
「前にも聞いたことがあるけど、おまえは俺を恋愛対象としては見てないんだろ?」
「前にも言ったけど、俺はメガネフェチだ。おまえのメガネに心を奪われてる」
話にならねぇな、と潤はタクシーを拾っていた。
一緒に乗り込もうとしたら、冷たくあしらわれた。
「あれで童貞なんだもんなー。グッと来ないわけにゃいかんだろ」
ぽつんと夜の街に取り残された俺は、遠くなっていく潤が乗ったタクシーを豆粒みたいになるまで見送った。
*****
アダルト業界に入って数か月で、ずいぶんと通帳に浮かぶ数字の列も増えた。
毎日がカップラーメンの日々は、いつのことやら、借りる部屋も広々としていて、ベッドもふかふかになった。
「まさか、熱帯魚まで飼っちゃうようになるんだもんなー」
ペットショップで働いていた頃に惚れた熱帯魚も今じゃ、うちの住人。
そういえば、潤のやつも熱帯魚系、好きじゃなかったっけ?
そうだ。
今度はこれをエサに潤をうちに誘おう!
そうだ、そうだ!それがいい!
「あー、でも、あいつ、古代魚のが好きだったっけか?」
悶々とした夜は続いた。
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